今まで一度もアイツに隠し事なんてなかった

でも、きっとこれだけはこの先もずっと伝えられないと思う隠し事

それは

【俺が神童を好きだということ】

俺がアイツに初めて作ってしまった俺だけの秘密…

そのたった一言がいえなくて…

「霧野?」

「なんだ?神童」

アイツを異性として意識していることに気づいてからの俺は、無意識のうちにずっと神童を目で追い続けていたらしい。

今もそうだ。

神童が俺の視線に気づき、”用でもあるのか?”と問いかけてきた。

「他の奴らに聞かれたくない話なのか?だったら、そっちのミーティングルームでも」

「いや、なんでもないから。気にするな。それよりも天馬は?」

「え?あっああ。アイツか。アイツなら、もう信助と帰ったぞ。もしかして、アイツに用があったのか?」

「ん?あっああ、まあな。でも大したことじゃないから、明日にでも話すさ」

本当は天馬になんて用なんかないのに、俺が神童を見つめていた理由を問いただされるのが怖くて、つい嘘をついていた。

「んじゃあ、俺らも帰るな〜。おつかれ〜」

「それじゃあ、神童くん、霧野くんお疲れさまでした」

「じゃあな。神童、霧野」

「「ああ。また明日」」

さっきまで呑気にくっちゃべっていた浜野たち3人も帰り、更衣室には俺と神童だけが残された。

「じゃあ、俺外出てるな」

「あっああ。すまないな」

「いいって別に」

まだユニフォーム姿のままの神童を残して、俺はそっと更衣室を後にした。

また誰かが忘れ物でもしたぁ!なんてここへ戻ってきて、着替え中の神童と鉢合わせになったらまずいから、すぐ外で壁にもたれかかってアイツが着替えを終えて出てくるのをただ黙って待っている。

だけど、正直言ってこのわずかな時間が凄く辛い。

俺だけ知っている神童の秘密。

ずっと幼なじみとしてアイツの成長を見てきた俺だけが知っている女としての神童。

中学に入ってからは一度もアイツの女らしい格好なんて見たことないけど、去年一度だけ2駅先のプールに無理矢理神童を連れて行ったことがあった。

普段の体育は理由をつけて水泳の授業はいつも見学扱いってこともあって、俺はとくに意識せずにアイツを気晴らしにとプールへ連れてったんだ。

そして、今まで気づかなかったアイツの体の変化にはじめて触れた。

あの時、はじめて俺は実感したんだ。

【ああ、そうだった。神童は本当は女の子だったんだよな】

って…

今、思えばあれが神童を異性として本格的に意識しはじめた最初の一歩だったんだと思う。

そして踏み出してしまった二歩目。

松風天馬が神童に触れたとき--。

まるで運命の風が吹き抜けたみたいに、俺と神童の間に見えない壁ができたような気がした。

”天馬”という壁が…

今まで近くにいて当たり前だった神童が、遠くに感じて触れられそうで触れられない場所にいて、気がついたらそれが息苦しくて仕方なかった。

--今頃になって気づくなんてさ。バカじゃね?俺…

フッと自嘲気味に笑う。

そこへスッと更衣室の戸が開き、学ラン姿の神童が俺の隣へと姿を見せた。

「待たせたな。それじゃあ、帰ろうか」

「ああ」

ふわりと俺の横を通り過ぎる神童の髪から甘い香りが漂った。

「なあ」

「ん?」

「おまえ、もしかしてシャンプー変えた?」

「…//なっなんでまた急にそんなこと」

「いや、なんかいい香りしてきたから…それも今までのと違ってなんか大人の香りっての?」

「うっ…いいだろう!別に!!俺がどんなシャンプー使おうと」

サッカー棟の鍵を閉め、神童はそのまま「鍵返してくるから校門で待っててくれ」とだけ言い残すと、俺から逃げるようにして、校舎の方へと駆けて行ってしまった。

今にも泣きそうなくらいに瞳潤ませて、顔を真っ赤にしてさ。

「神童が恋してる…か。なんかそれ冗談に聞こえなくなってきちゃったなあ」

クラスメイトが昼間、呟いた言葉が脳裏を過ぎり、俺はキュッと誰かに胸の奥を強く握りつぶされたような感覚に襲われた。

「やっぱ…天馬…かな?」

--聞いてしまえば、それで全て分かる。

でも、聞くのが怖い…

もしも、俺の想像通りの答えがアイツの口から発せられたらと思うと、聞きだせない。

「なあ…神童。おまえが俺を好きってことはないのかな?」

答えを返してほしい相手はここにはまだいない。

だからこそ、呟いた問いかけ。

「俺はさ…おまえのことが好きなんだぞ。神童」

--気づいてほしい。

それは小さな小さな願い。

このまま、ずっと幼なじみのままでいたくない、俺の小さな願望。

「なんてな…言えたら一番いいんだけどな」

おもわずフッと笑みをこぼし、俺は夜空に浮かんだ一番星を見上げながら呟いた。

--言えたら、きっとこの痛みは消え去るだろう。

どちらに転んでも…きっと---。

この胸を締めつける一方的な痛みからだけは解放される。

ただ、俺にはその一時的な痛みにすら耐える勇気がないだけなんだ。

--もしも、失恋したらというときの…今の関係さえも崩しかねない告白の後に見る世界が怖いんだ。

-end-