| 「鈴…鈴!」 「んにゃ…もう少しなんだ。あとちょっとで…こまりちゃん」
「だから、その小毬さんがもう行っちゃうんだよ!早く起きてよ!」
「なにっ?!」
--がばっ!
理樹に肩を激しく揺すられてあたしは深い眠りからハッと目を覚ました。
手元には作りかけのこまりちゃんの人形が握られたままだった。
「…間に合わなかった。絶対に作るんだって決めてたのに…あたしは」
「鈴。…はい」
落ち込むあたしの目の前にあたしの人形が、理樹の手によって差し出される。
「鈴のはできてるじゃないか。これだけでも、持って行ってあげなよ。小毬さんのは後でゆっくり作ればいい。持つのは鈴なんだから」
「理樹…でも、この人形は2つで1つじゃなきゃ意味がないんだ。お互いにお互いの代わりとなる人形を交換しないと」
「あれ?おまじないなんて信じてないんじゃなかったっけ?」
「う…それはそうだが---」
「一番大事なのは鈴の小毬さんを思う気持ちだと僕は思うよ。それに」
理樹が何か言いかけようとしたときだった。
いきなり、バンッ!と部屋の扉が無造作に開かれ、理樹は反射的にあたしを隠そうと手近にあった布団をあたしに投げかけた。
「理樹!大変だぞ!神北が予定を早めて出なくちゃいけなくなったらしくてな、今さっき校門の方へ駆けていったそうだ」
「「ええっ?!」」
部屋に飛び込んできたのは、この部屋の主の謙吾だった。
昨日は深夜近くまであたしに付き合って、こっそりと理樹と一緒に人形作りに手を貸してくれていたのにも関わらず、部活の朝練に出ていたらしい。
竹刀片手に飛び込んできた謙吾はあたしと理樹を見つけると同時に、こまりちゃんがここから去ってしまったことを告げた。
「鈴!急ごう!!」
「言われなくてもわかってる!!」
謙吾を先頭に寮の玄関目指して駆けていくあたしと理樹。
あたしと理樹が寮の玄関を飛び出してすぐだった。
誰か大きな人影があたしの視界を遮るように立ちはだかった。
「ぎゃっ!」
「おっと!大丈夫か?鈴」
「こっの!バカ真人!!危ないじゃないか!ぼけぇっ!!」
「ぁんだよ!せっかくおまえのためにチャリ通の奴から、一台借りてきてやったってのによぉ」
「…?どういうことだ?」
真人の話によると、朝の筋トレ中に急に謙吾に呼び出され、自転車を一台借りてきてほしいと頼まれたらしい。
アイツ自身はそれこそワケもわからないままにとりあえず言われるままに一台借りてきたらしいのだ。
「これで追いかければ神北に追いつくだろう。急げ、鈴!電車に乗られたらそこまでだぞ!」
「先生には適当に言っておくから、早く行くんだ!」
「よくわかんねえけど、がんばれよ!」
「謙吾、真人…理樹」
真人が借りてきた自転車はあたしには大きすぎたが、乗れないことはない。
3人の幼馴染が見送る中、あたしは駅へと向かって遥か先を歩いているだろう、こまりちゃんを追いかけて自転車のペダルを漕ぎ出した。
制服のポケットにはしっかりとこまりちゃんの人形をしまって---。
※ ※ ※
「こまりちゃん!」
「鈴ちゃん!どうしたの?」
駅に入る直前で、あたしはこまりちゃんの後ろ姿を見つけた。
最後の力を振り絞って疾走し、自転車から飛び降り大声でこまりちゃんの名前を叫んだ。
こんなところにいるはずのないあたしを前にして、こまりちゃんはちょっとびっくりしたような顔をしつつも、なんだかとても嬉しそうな顔をしてよろめき近づいてきたあたしを抱きとめてくれた。
「こまりちゃん…これ」
「ん?なあに?」
あたしはずっと手に握り締めていた人形をこまりちゃんの前へと差し出す。
理樹と謙吾に手伝ってもらいながら、何度も何度も指を針で刺すような真似をしながらもがんばって自分の手で作りきったこまりちゃんの人形。
縫い目も粗くて、ずいぶんと雑なものになってしまったけれど、この人形にこめた思いだけは誰にも負けていないつもりだった。
「……あっ…これ!鈴ちゃん…」
「本当は、こまりちゃんの人形も作って交換してもらおうと思っていたんだ。だけど、結局間に合わなかった」
「鈴ちゃん」
「だから、こまりちゃんだけでもあたしの人形を持っていってくれないか?あたしは本当はずっとこまりちゃんと一緒にいたい!だけど、こまりちゃんはこまりちゃんの思いがあるから…こまりちゃんのやりたいことをあたしは親友として全力で応援したいから、あたしはちゃんとこまりちゃんを笑顔で見送る。あの日、こまりちゃんがあたしを笑顔で見送ってくれたように…」
「鈴ちゃん…」
あたしの人形をそっと包み込むようにこまりちゃんの両手があたしの差し出した手をそっと包み込むように握り締める。
--ポツン…
瞬間、あたしの手の甲にこまりちゃんの涙が落ちた。
「ごめんね…泣かないつもりだったのに、鈴ちゃんのその強い言葉聞いたらなんだか嬉しいような悲しいような寂しいような…よく分からなくなっちゃったよ」
涙目に笑顔を浮かべながら、手をそっと引くこまりちゃん。
ふとあたしが差し出していた自分の手の中を見つめると、そこにはこまりちゃんの人形が乗っていた。
こまりちゃんはあたしの手の上に、あたしの出した人形の代わりとして、自分が作った自分の人形を乗せてくれていた。
「実はね…私も同じようにみんなにお別れ会をしてもらった後、お人形作ってたの。でも、結局時間も遅かったし自分のしか作れなくて…。だから、渡すの諦めちゃおうって思ってたところだったんだ。でも」
こまりちゃんはあたしの人形を掲げてニッコリと笑ってみせた。
「交換…できちゃったね」
「うん」
あたしもまた、こまりちゃんがくれたこまりちゃんの人形を掲げて笑ってみせた。
「お人形、大事にするね」
「あたしも」
「いつか、必ず私もこの街へ戻ってくるから、約束…するから。だから鈴ちゃんもいつまでも私の親友でいてね」
「うん。約束だ」
こまりちゃんの優しい言葉におもわず、堪えていた涙が零れ落ちてしまう。
ぐすぐすと泣き出した私にこまりちゃんもまた、涙声でそれでも悲しさを見せないように明るく声をかけてくる。
「鈴ちゃんにも私の泣き虫さんうつっちゃったのかなあ?でも、お別れは」
「うん。笑顔だな」
「うん」
そっと指きりを交わして、あたしたちは互いの涙をぬぐって笑顔でさよならをした。
大きく手を振って駅の改札口へと消えていったこまりちゃん。
「鈴ちゃ〜ん!必ず!必ず手紙書くからね〜!」
「あたしも!あたしも、今よりもっと強くなるから!そしたら、約束だ!」
大きく手を振り返しながらあたしは誓った。
--近い将来、絶対にあたしの方からこまりちゃんに会いに行くと…
※ ※ ※
「Promise Doll…か。まさか小毬さんも鈴と同じことを考えていたなんてね」
「うん」
「でも、良かったじゃないか。おまじない…信じてないなんていってたけど、とりあえずはできたんだしね」
「ん…まあ、そうだな」
あの別れから数日後、こまりちゃんは機上の人となった。
大好きな親友がいない放課後の教室はやっぱり何か物足りなくて、あたしはふと彼女が旅立っていった広い空を見上げていた。
「やっぱり…寂しい?」
「少しな。でも、あたしにはこれがあるから『だいじょ〜ぶ』だ」
そういってあたしは理樹に向かって携帯を掲げてみせた。
そのストラップの先に結んであるのはこまりちゃんの人形。
あたしはその小さな小さなこまりちゃんの人形をそっと右手で包み込み、そっと心の中で呟いた。
(こまりちゃん…離れ離れでも寂しくなんかないぞ。だって、あたしにはちゃんとこまりちゃんの心が傍にいてくれるんだからな)
それはあたしにとってはじめてできた大切な親友からのおまもりなんだ。
今度、この人形を互いに持ち主の元へ返すとき…
その時、Promise Dollは文字通り約束を果たしたことになる。
「必ず…約束したから…絶対だ。こまりちゃん。また会おう」
「うん。約束…したからね。鈴ちゃん」
2人の思いは空を飛び、海を越え、どこまでも無限に繋がっていくんだ。
離れていても、心はここに…
いつだって傍にいるんだからと強く伝えながら--
-end-
駄文--
ずいぶんと前から鈴こまネタを持ちつつ、今日まで延びました。
結局、小毬が引っ越して離れ離れのネタにおさまったわけですが、まあいろいろ考えたさ…
恭介が抜けた後ということで、恭介抜きで少々修正かけなおしました。
前よりまとまったシナリオになったかもしれない。
2008/05/16作成
2010/06/26修正
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