せっかく友達になれたのに…

やっと『親友』っていえる女の子の友達ができたのに…

いつかはきっと…

離れ離れになってしまうんだろうな

アイツがこの学校を去っていったように…

あたしも理樹も…

そしてこまりちゃんも…

 

Promise Doll

 

「小毬さん、最後のお別れの時も、いつもと変わらなかったね」

「うん」

「親の都合とはいえ、学校やめなくちゃいけないなんて…遠くへ行っちゃうなんて…。また1人、バスターズのメンバーが去っていくなんて…寂しいよね」

「……」

 

はじめて理樹があたしの前ではっきりと寂しいという感情を口にした瞬間だった。

こまりちゃんが、遠くへ引っ越すという話を皆に告げたのは、あの修学旅行の事故から1年が過ぎ去った初夏の頃だった。

『私ね…お父さんのお仕事の都合で、海外へ引っ越すことになったんだ。最初はね、私だけでも寮に住んでいることだし、卒業まで残ったらどうか?って話もあったんだけど…』

ほんの少し、言葉を詰まらせながらもこまりちゃんは決然とした表情ではっきりとあたしたちに自分の決意を口にした。

『私、お父さんのお仕事のお手伝いを向こうでしたいなって思ったの。向こうで困っているたくさんの人たちの力になりたいなって思ったの。だから、みんなと別れるのは辛いけど、私…ここで勉強するよりも大事なこと…教えてもらったから』

こまりちゃんはあたしと理樹の方を見つめ、いつもの笑顔を浮かべてそういったんだ。

急すぎる話に、みんな動揺した。

だけど、こまりちゃん自身がそうしたいって決めたことなんだからと誰も、むやみに止めようとはしなかった。

あたしは心のどこかでずっと『誰か引き止めてくれたら』と思っていた。

だけど、あたし自身はそこまで言える勇気もなくて、結局今日まで来てしまっていた。

明日にはこまりちゃんは荷物をまとめて実家へ帰ってしまう。

そしてその数日後にはもう日本にすらいないのだ。

 

「さてと、そろそろバスターズでのお別れパーティーの準備をしなくちゃね」

しばしの沈黙を破り、スッと理樹が席を立ったときだった。

パサリと一冊の雑誌が理樹が立ち上がった拍子に机の中から滑り落ちたようだ。

「ん?誰だよ。もおっ。僕の机はごみ箱じゃないんだからね!」

そういって理樹はそれをごみ箱へ捨てようと拾い上げる。

「あっ待ってくれ!理樹」

「ん?」

理樹が手にしていた雑誌の表紙にふと目をとめ、あたしはとっさに突っ伏していた机から顔をあげ、しっかりとその雑誌を見つめていた。

すばやく席を立つと、理樹の手から雑誌をもぎとる。

「もしかして、これ鈴の?」

「ん…あっああ。そうだ。なくしたかと思っていたんだ」

うそだ。

理樹もすぐに気づいたのだろうが、とくに何も言わずに「先、行ってるね」とだけ言って、教室から出て行った。

「まじないなんて信じるつもりはないが、何かこまりちゃんに残しておきたいしな」

パラパラとページをめくり、あたしはまだこまりちゃんが遠くへ行くなんて思いもしなかったあの頃に、はるかたちと読んでいたあの『おまじない特集』を探していた。

「あっあった!」

誰もいない教室でただ1人、あたしはしばらく夢中になってそのページを食い入るように読み漁っていた。

だけど、読めば読むほどあたしには無理だと思い知らされ、最後には今にも泣きそうになっていた。

「う〜…ダメだ。こんなのあたし1人で明日までになんて作れっこない。でも、こまり…ちゃん」

グスッと鼻をすすらせ、今にも涙があふれ出そうになったときだった。

誰かが忘れ物でも取りに来たのだろうか?

いきなり教室の扉が開く音がして、あたしは慌てて手の甲で涙をぬぐい、雑誌をグッと胸に抱きしめ身構えた。

「鈴?やっぱりまだここにいたんだね。そろそろお別れ会はじめるよ。一緒に行こう」

「なんだ。理樹か…」

ホッと肩を落とし、あたしは急ぎ足で自分の席へと戻り、かばんを手に理樹の元へ走った。

理樹と並んで歩きながら、雑誌をかばんの中へ押し込む。

「明日までに作れそう?」

「え?何をだ?」

「何をって…おまじないの人形だよ。小毬さんに作ってあげるんじゃなかったの?」

やっぱり理樹は分かっていたんだな。

そう思ったのと同時に、さっきまでこらえていた弱音が再びあふれ出し、あたしは理樹の前で不安をぶちまけていた。

「作りたかった…でも、とてもじゃないが今からじゃ無理だ。材料だってないし、作り方だって読んだだけじゃわからない。あたしにはできない。でも、あたしはあたしは---」

「大丈夫だよ。鈴」

フッとあたしの頬を伝い落ちる涙を理樹の暖かな手が拭った。

視線をあげたとき、一瞬理樹がこまりちゃんと重なってみえた。

(こまり…ちゃん)

あたしが辛いときとか落ち込んでるとき、いつだって隣にはこまりちゃんがいてくれて、「だいじょーぶ」と魔法の言葉を投げかけてくれていた。

いつも明るいこまりちゃん。

人前では絶対弱音を吐かない彼女だけど、きっと心の中では今でも数え切れないほどの不安を抱えているかもしれない。

そうだ。今度はあたしがこまりちゃんをずっと「だいじょーぶ」にしてあげなくちゃいけないんだ。

「理樹。お別れ会が終わった後でいい。謙吾を誰にも気づかれずに呼び出してくれないか?」

「うん。そういうだろうと思って、もう話はしておいたよ。たぶん、そろそろ謙吾が必要な材料を用意しておいてくれてあると思うよ」

「理樹…」

「僕が鈴のこと何もわからないなんてことないじゃないか。だって、長い付き合いだもの。鈴がこの雑誌に目を向けたときに、僕もピンときたんだ」

理樹はあたしのかばんの間から顔を覗かせている雑誌に目を向けて、もう一度「大丈夫だよ」と言ってくれた。

「理樹…」

「ん?」

お別れ会が行われる食堂へと向かいながら、あたしは小さな声で理樹に「ありがとう」と呟いた。

だが、あまりに小さい声だったせいか、理樹には届かなかったらしい。

「何?鈴。ごめん、よく聞こえなかった」

「…もういい。なんでもない。それより早く行くぞ」

もうだいぶ暗くなってきてたから、今のあたしが顔を真っ赤にしていたことは理樹には気づかれないだろうと思う。

でも、本当に感謝してるんだ。

これで、明日こまりちゃんに人形を持っていけるんだからな。

 

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