| いつかはさよならしなくちゃいけない人 それはよく分かっている でも、そんな思いとは裏腹に あなたを好きな気持ちは捨てられない 夢でもいい 叶わなくてもいい だから… 今だけはあなたの一番近くにいさせてもらっていいですか?
恋一夜 夢千夜
「え?ええー!!」 それはあまりに突然のことでボクの頭はショート寸前。 理樹はボクの隣で「しっかりしなよ」とボクが意識を失わないように体を左右に大きく揺さぶってきた。 「…まあ、リキがいいっていうんならになるけどな」 「あっ…えと。理樹が一緒なら行きたいです」 「って!僕同伴??それってデートとは言わないんじゃ」 「だったら、理樹も誰かバスターズの女子を1人連れて行けばいい。ただし、後で喧嘩にならないようにこっそりと1人だけ誘うんだぞ。できるか?そのミッション」 「ええ!しかもほぼ強制?!う〜ん」 理樹は恭介さんが提案してきたWデート企画に、躊躇していたようだが、ちらりとボクを見、脳裏に誰か気になる子の顔でも浮かべていたのだろうか? ちょっとだけ頬を色づかせるとすぐに一言。 「やってみるよ」 と2つ返事で承諾してくれた。 「どっちにしても、僕もホワイトデーのお返し何あげようかな?なんて考えてたとこだったし、ちょうどいいかも。でも、他の子にはどうしようかな?」 「だったら、スキー旅行の土産でいいだろ?」 「いやいやいや!それ渡したら、内緒で遊びに行ったのバレちゃうから!」 「だったら、普通にキャンディかマシュマロ辺りだね」 「うん。そうするよ」 そして、ボクは念願の日帰りではあるけど、棗先輩との初デートをホワイトデーのお返しとしてもらえることになったわけなのです。
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「ほわ〜。これ、全部タダで貸してもらえたんですか?」 「ああ。ここのペンションのオーナーとは就職活動で旅をしていたときに、ちょっと世話になってな。顔見知りなんだ」 「恭介、顔広すぎ」 棗先輩は車の免許を取得していたらしく、その日はレンタカーで小毬と理樹、そしてボクを乗せてスキー場までやってきた。 「へえ〜。理樹の好きな子って小毬だったんだあ」 スキー板の装着がうまくいかない小毬に手を貸してあげてる棗先輩を横目で見やりながら、ボクは理樹にこっそりと囁きかける。 「…うん。彼女は僕にとって特別な子だから。でも、小毬さんが僕のことどう思ってるかまではまだ分からないんだけどね」 「ふぅん…。でも、なんか不思議な感じ」 ボクはぼんやりと空を見上げながら、自分の世界のことを思い出していた。 「向こうの小毬はボクにとってはとても大切な親友で、棗先輩は片思いしてる人。でも、ここでは理樹にとっての大切な人は小毬で、親友は棗先輩にあたるんだよね」 「そうだね」 理樹がボクに微笑みかける。 ボクもまた理樹に笑い返した。 気持ちがいつだって通じ合っているような感じがして、安心できる相手。 それが理樹。 今、ボクはこの世界に少しでも長くいられたらいいのにと願わずにはいられなかった。 もう長くはここにいられないこと…気づき始めているのに。
「よおし!準備できたぞー!」 「リキちゃーん!理樹くーん!一緒にすべろーって!ほわああ!!」 「あっおい!小毬!!勝手に滑り出すなって!」 「そんなこといっても〜!!誰か止めて〜!!」 緩やかな斜面をふらふらとした足取りで勝手に滑り降りていく小毬。 それを慌てて、止めに後を追っていく棗先輩。 なぜだろう? 今までのボクだったら、こんな2人の姿見てられないとこなのに、今は理樹と一緒になって笑いあっていられる。 小毬がおもいっきり尻餅をついたところへ棗先輩が追いつき、小毬を助け起こしている。 2人のシルエットがここからだと重なり合って見えるのに、なんとも思わないでいるボクがここにいる。 変わり始めているのかな?ボクの心も---。 理樹とこの世界の棗先輩のおかげで。 「じゃあ、理樹は昔ちょっと俺たちとスキーやったことあるから、少しなら教えられるだろ?んで、おまえは経験あるのか?」 理樹に小毬さんの指導を押しつけながら、棗先輩は立っているのも怪しいボクへと視線を向けながら一言。 「未経験か」 「はい…。何もかも理樹と同じじゃないです」 ボクが申し訳なさそうにいえば、棗先輩はおかしそうに笑いながら「そりゃ当然だろ」といった。 「だって、おまえは理樹であって理樹じゃないんだからな。並行する世界に存在するもう1人のリキとはいえ、家族構成から違う。通ってた学校だって違う。何もかも同じとは限らないだろ?」 「そうですね」 「じゃあ、今日は滑れるようになっておこうな。自分の世界に戻ったときにでも、おまえの姉妹に滑り方教えてやれよ」 「はい。お願いします」 最初は棗先輩を近くに感じるだけで、意識しすぎていたボクも今ではそれなりに接することができるようになってきた。 相変わらず胸はドキドキしてるけど、それでもまだ意識はあるし、頭に血がのぼって真っ白になったりはしないもん。 少し離れたところで理樹が小毬の手をとって、一緒に滑り出している姿が見えた。 ボクが棗先輩と一緒にいて緊張しなくなってきたのは、やっぱり理樹が傍にいてくれるおかげなのかもね。 「楽しいか?」 「あっはい!もちろんです」 「そうか。それは良かった」 ふと棗先輩が寂しそうな顔をボクに浮かべたような気がしたのは気のせいだろうか? 「じゃあ、次はあのリフトに乗ってもっと上で」 「そっそれは早いです!遠慮します! ボクが先輩の顔を再び覗き込んだときには、いつもの無邪気な笑顔を浮かべていたから。 きっと気のせいだったんだよね?
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楽しい時間はアッという間に過ぎ、ボクたちは帰り支度をする時間となった。 「リキ。ちょっといいか?」 「あっはい」 「理樹と小毬は先に車に乗って待っててくれ。すぐに戻るから」 「うん。分かった」 「はあい。先にいってますね〜」 借りてたウェアーとスキー道具一式を返して、車へと向かってみんなで歩いていたときだった。 不意に棗先輩に手首を掴まれ、林の方へと連れて行かれた。 「棗先輩?どこへいくんですか?」 「ん…。ちょっとしたサプライズを用意してあってな。こっちだ」 先輩に手を引かれ、深い雪の中を踏み歩いていく。 一度、誰かが踏み抜いた跡を辿りながら、進んでいくとしばらくして視界が一気に拓ける場所へ出た。 「うわあ〜…」 「リキへのホワイトデーのお返し。形にはならないが思い出にはなるだろ?」 「あっありがとうございます」 目の前一帯に広がる真っ白な雪原に描かれた幻想的な風景。 その中央に書かれた雪文字に目がいったとき、ボクは自分の目を疑った。 「…あ。棗…先輩」 「読めたか?正直、うまくいったかどうか自信なくてな」 「はい…しっかりと読めます」 そこには棗先輩からのボクへの精一杯のメッセージが刻まれていた。
--おれのこと わすれるな リキのこと わすれない--
「ずっと覚えてます…この世界に終わりが来て、もう二度とこの世界へ来れなくなっても」 「俺もおまえのこと忘れないからな。ここにもう1人のリキがいた真実を絶対に」 そっと頭を撫でられた。 瞬間、ボクの瞳から大粒の涙が溢れ出していた。
--この想いはここでは叶えられないことを2人は知っている でも、ここで刻んだ思い出たちは消えることなく残るだろう そう 2人が強く願えば… 「ありがとうございます。棗先輩」 「俺からもおまえにありがとうというよ。リキ…この世界に迷い込んでくれてありがとう。俺に出会ってくれてありがとう」 そっと棗先輩の手がボクの背中へと回されて、優しく包み込むように抱きしめられた。 ずっと望んでいたささやかな夢。 棗先輩とこうして2人で寄り添い生きられたら、どんなに幸せだろう? でも、ボクにはできない。 この世界のリキはボクではないから---。 だから、今だけ夢を見させてください。 長い夢を… 目覚めるまでの間だけ。 この瞬間だけ、恋人の2人という幻想をまた1つ心のアルバムに刻もう。 この世界が終わるまで続く夢の中で。
終わり あとがき-- 久々の恭リキ♀だけど、理樹リキ♀メインの恭理♀なのでこれが限界w そして理樹リキ♀小説のラストを思いついた。 あのシリーズが完結したら、リトバス本当の意味で、私の中でオーラスだなあって思ったのです。 ともあれ、ホワイトデーはリキが報われるものにしてみました。ささやかだけど。 |