「よし!まずはここからだ」

「…ここって」

「見てわからないか?ウチのクラスのお化け屋敷だ」

「「ええ〜!!」ひっく!」

最初に恭介によって連れてこられたのは、今朝から入る人、入る人が悲鳴の絶叫、最悪卒倒するほどの騒ぎとなっている恭介監修のお化け屋敷の前。

リキはしゃっくりがとまらないのにも関わらず、めちゃくちゃ嫌がって僕の後ろに隠れてしまったようだ。

鈴もじりっと後ずさりし、「あ〜あたしは関係ないしな」とかいって逃げようとするも、すみやかに来ヶ谷さんにつかまって現在、羽交い絞め状態で逃げ場を失っている。

「しゃっくりに一番いいのは脅かしてショックを与えることだろ。さあ、行こう」

めちゃくちゃはりきってるんですけど、この人。

もう半強制的に僕まで巻き込まれてズルズルと中へ引きずられていく中、数分後---。

「ひっく!」

一度はとまったかと(以前に途中で卒倒しちゃったリキだけど)思われたリキのしゃっくりも意識が戻れば振り出しに戻りで、あれだけ恐怖にひきつったのに無駄骨で終わったようだ。

「ダメだったか」

「やはり、アレだな。階段の途中で突き飛ばされるとかしないとな」

「いやいやいや!そんなことしたら、怪我するから!下手すると怪我どころじゃすまないかもしれないし!」

ぜいぜいと息も絶え絶えながらに鈴が出した提案は、ちょっと命の危険も感じられるものだったため、さすがに却下された。

「いや、待てよ…それに似たようなソフトなショック療法ならいい具合に止められるかもしれないな」

「え?」

しゃっくりと先ほどの恐怖から未だ震えがとまらないでいるリキを介護する恭介を横目に見据えながら、何か名案を思いついたらしい来ヶ谷さん。

この時点で残り、10分を切ってしまった。

このままリキのしゃっくりとまらなかったら本当に僕が…?

それだけはやめてほしいと来ヶ谷さんの最後の案が成功することを全力で祈る僕であった。

 

※ ※ ※

 

「そろそろ戻らないといけないな」

「あれ?来ヶ谷さん、恭介は?」

「ああ、直枝女史のために冷たい飲み物でも買ってくると言ってたな」

足取り重く、タイムリミットも目前のため、ゆっくりと教室へと戻っていく僕と、しゃっくりしっぱなしのリキ。

結局、あの後来ヶ谷さんがリキのしゃっくりどめの何かを実行する様子はなく、恭介も最初に用意した作戦がやりすぎだったことを反省してからか、何も行動をとらずに終わってしまった。

「心配するな、理樹くん。用意されてるメイド服は先生方のチェックを通してのデザインになっているからな。露出はきわめて控えめだぞ」

「いやいやいや!そういう問題じゃなくて!」

僕たちが角を曲がったそのときだった。

「キャアッ!」

リキの悲鳴が背後から聞こえ、僕はびっくりして振り返った。

「どうしたの?!リ…」

階段の中程でどこから現れたのか、恭介がリキを背中からしっかりと抱きとめている姿が見えた。

「びっびっくりしたあ…」

「どうだ?適度なショックでちょうど良かったんじゃないか?」

「え?」

「しゃっくり…もうしてないだろ?」

「え?あっそういえば…ホントだ!とまってる!理樹!とまってるよ!しゃっくり!!やったあ!」

恭介に抱きかかえられていることも忘れてはしゃぐリキ。

僕も彼女のしゃっくりがとまったことでおもわずホッとため息をつき、ふとさっきの来ヶ谷さんのつぶやいた言葉を思い出し、彼女を振り返る。

「もしかして、さっき言ってた『ソフトなショック』って…」

「うむ。これのことだ。鈴くんの『突き落とす』という発想で思いついてな。もし、これでとまらなくても保険として恭介氏を適用しておいたからな。どうだ?うまくいっただろう」

「うん。すごいよ!来ヶ谷さん。ありがとう!恭介!!」

これで、女装は回避された!そう思って今もなお、リキをしっかりと抱きかかえている恭介に手を振る僕。

「…へ?きょ…すけ?…ん?…と?…えええ〜!!ひっく!」

「え?…」

「おっと、保険がまさかの方向へ働いてしまったようだな。このまま気づかずにいてくれてれば(理樹くんにとっては)よかったものを」

フッと笑みを浮かべながら、来ヶ谷さんは僕を見つめ「残念だったな。もう時間切れだ。直枝女史との入れ替わり頼んだぞ」と言い残し、教室へと消えていくのであった。

「そんなのアリですか〜…」

「直枝さん。それではこちらでお願いしますね」

嘆く僕の背後からひっそりと顔を覗かせた西園さんの手の中には、リキが着る予定だったメイド服がしっかりとたたまれてあったのでした。

 

 

-終-