チョコっとおかしな大作戦!
「う〜…」 「それでは計画どおりにお願いしますね。直枝さん」 「よろしくね〜♪理樹」 誰もいない空き教室の1つに西園さんとリキが、僕を前に最後の仕上げを施していた。 僕は2人にされるがままになりつつも、やっぱり放課後になってあの時に「うん」と頷いてしまった自分を深く後悔し始めていたところだった。 「ねえ、やっぱりこのミッションなんか間違ってるよ」 「何?!今さらやめようっての?!」 「リキさんのために僕も一肌脱ぐよ…そうおっしゃったのは直枝さんではありませんか。それを今さら」 「ぅもおっ!分かったよ!!やればいいんでしょ!やればぁ!!」 「うん!」 「はい。それではミッションスタートです」 「じゃあ、ボクたちは来ヶ谷さんのところに戻って、様子見てるからね〜」 「……」 まるで他人事のようにそういい残して、西園さんと一緒になって、僕を置いて去っていく【今は僕になりすました】リキの後ろ姿を見つめて、【今はリキになりすました】僕は深いため息をついて、今から数時間前のお昼休みの出来事を思い出していた。
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『…それで真人がさあ、全部食べちゃったんだよ。恭介がいらないって言ったものだからさ』 『ふうん。そうなんだ』 『あれ?もしかして、その中にリキの分も入ってた??なんか恭介いちおう小毬さんから貰った分と---』 『小毬…さんのは自分用にとっておいたんだ?』 『え?うん。後、他にも何個かくらいは…でも、リキが僕や真人、謙吾にくれたのと同じ包装紙っぽいのは残ってた中になかったし…。もしかして、直接じゃなくて誰かを通して渡してもらったとかなんかした?』 『リキさんは恭介さんには上げてないみたいですよ』 『え?』 そもそものはじまりは僕が西園さんと一緒に中庭で昼食を食べていたリキを見つけ、土日で大量に集まってしまった恭介のバレンタインチョコの話をしてしまったことだった。 僕はリキから去年。彼女が自分の世界にいた頃にも【憧れの棗先輩】にチョコを作っていたらしい。まあ結局、あの時は渡せなかったからということで、今年こそはチョコだけでも渡すんだ!って張り切っていたのにな。 でも、今の西園さんの話からするとリキはまたもや渡しそこねてしまったらしい。 リキは西園さんに促されるままにポケットから小さな箱を取り出して見せた。 『それ…僕にくれたのと同じの』 『うん。また渡しそびれちゃった!』 明るい笑顔を見せて軽く言い切ったリキだけど、きっと心の中では相当悲しいに違いないはずだ。 だって昨日のリキはめちゃくちゃ気合入ってたしさ。 なのに…。 『ねえ、リキ?それでいいの?』 あまりに彼女が不憫でならず、つい僕は言ってはならない言葉をあの時口にしてしまっていた。 それが後々、どう考えればそれが最善の方法になるのかも分からずに、僕は彼女らと後にこのミッションに好んで巻き込まれたと思われる来ヶ谷さんによって、こんな事態になるとは思いもせずに、2人にすっかりのせられてしまったのだ。
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ボーッとしながら、教室の窓から夕焼け空を見つめていると、ふいに耳元に仕込んだインカムから、来ヶ谷さんの声が聞こえてきた。 「理樹くん、もうそろそろ恭介氏がそちらへ向かうと思う。キミは可愛い妹のためにしっかりとミッションを遂行してあげたまえ」 「了解」 やる気のない返答を軽くしながら、僕は来ヶ谷さんの声の背後からリキの《妹じゃなくて姉です〜!》という叫びを僅かにとらえながら、大きく息を吸い込んだ。 (そうだよ…。僕はリキのために、リキの代わりに恭介に彼女の思いを伝えるんだ) ポケットに忍ばせていたチョコを取り出し、僕は自分に言い聞かせるように大きく頷いた。 それを合図と待っていたかのように、ドアが開く。 「なんだ?リキだったのか」 「あっうん。ごめん…なさい。【棗先輩】。急に呼び出したりして」 予想してたよりも早く到着した恭介に、おもわずいつもの調子で話しかけそうになり、慌てて声色を高めに保ち、リキを演じる僕。 (恭介、気づいたかな?) 内心、ドキドキしつつも、彼の僕とリキに対する態度はとくに大きな変わりもないため、今の会話からは気づいたかどうかが分からないままだ。 とりあえず、僕の女装姿に驚いた風を見せてないところをみると、完全にリキだと思い込んでると考えていいだろう。 僕は中央に進み出て、恭介にそっとチョコを差し出した。 「あの…これ、昨日渡し損ねたバレンタインのチョコです。よかったら食べてください」 「え?…あ〜ありがとう理樹」 マジマジと顔を見られたらきっと僕がリキじゃないことに気づきそうだと思って、下を向きつつチョコだけ差し出して渡したけど、なんか今一瞬恭介の声の感じがおかしかったような? そっと顔を上げると、やっぱり! 恭介はおかしそうに僕を見下ろしながら声を押し殺して笑っているじゃないか。 「あっあの?棗先輩??」 「何が【棗先輩】だよ。理樹。おまえ、アイツになりきってまでして、そんなにチョコ渡したかったのか?」 「え?あっいや!そうじゃなくて…っていうか!恭介、もしかして僕がリキになりすましてるの」 「ああ。【昨日渡し損ねたチョコ】の時点でな。アイツはたしかに昨日、俺にチョコくれたぜ」 そういって恭介はまだ手をつけていない色違いの包装紙でくるまれたチョコを取り出してみせた。 「なんか食べるのもったいなくてな。まだ手つけてないんだ」 リキにこの言葉は届いただろうか? いや、きっと届いてないだろうな。なにしろ、恭介が僕を偽者と見破った時点でそれを盗み聞きしていたサイドが無駄に盛り上がりはじめたからだ。 とくに西園さんがリキに【リキさんのおかげで私の妄想が現実のものになりました。ありがとうございます】が耳に残り、僕はリキにさえも騙されていたことにショックを受けられずにはいられなかった。 (恭介が今、言った言葉は絶対にリキに言ってやらないからね!)
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