愛情いっぱい!リキの手作り弁当
「へえ、リキは自分で弁当作ってきてるのか?うまそうだな」 「あっ…にゃっ…棗先輩?!あうっ…んぐぐ!」 とあるお昼休みのこと。 いつもは出会わない棗先輩と偶然、学食で遭遇してしまったボク。 ほとんど食べ終えたお弁当箱をふいに覗き込まれ、突然のことにおもわず喉を詰まらせてしまう。 「ほらっ!リキ、お茶」 「あ…ありがと」 理樹に背中をさすってもらいながら、差し出されたお茶を飲み干し、ホッと一息って場合じゃないかな?まだ。 ちらりと視線を上に上げれば、そこには心配そうな顔を浮かべる棗先輩がまだ立っていたわけだしね。 ボクが慌てて姿勢を立て直すと、棗先輩は変なものでも見たかのように苦笑しだす始末だ。 「ホント、こっちは面白いよな。ころころ表情が変わってさ」 (いやいやいや、それは全て棗先輩が原因ですから) ボクの心のツッコミに同意するかのような理樹の反応は、やっぱりボクらが同じ【直枝理樹】だってことを現している証拠なのかな? ボクを見て、「分かる分かる」と呟きながら、小さく笑う理樹をムッと睨みつけ、黙らせた頃、棗先輩もまたようやく笑いを噛み殺し、僕の隣の席に腰掛けると、いきなりボクの弁当箱を指先でつつきながら、とんでもないミッションを言い渡してきた。 「なあ、リキ。明日また俺、就職活動に行かなくちゃならないんだけどさ、その先での腹ごしらえにおまえの作った弁当喰いたいんだが、作ってくれないか?」 「え?えぇ〜!ボッボクが棗先輩のお弁当をですか?」 「イヤなら無理にとは言わないんだが」 「いっいえ!とんでもないです!精一杯がんばらせていただきます!」 「あっいや、そこまで気合入れなくてもいいんだけどな。いつもどおりのおまえが喰ってるようなのでいいんだからな」 ボクのただならぬ気迫に棗先輩は慌ててそうつけ加えると、なんだか嬉しそうな顔をして席を立っていくのであった。 かくしてボクは明日、就職活動へ旅立つ棗先輩へと手作り弁当を渡すべく、最高のお弁当作りのミッションをスタートするのであった。
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「ふんふふんふ〜ん♪」 お弁当に必要な食材を買いに早速近くのスーパーへ理樹を連れて買い出し中。 棗先輩って何が好きなのかな?よく分からないから理樹から聞き出しながら、よさそうなものを吟味して買い物カゴへといれていく。 「…やけに気合入ってるよね」 「あったり前じゃないか!棗先輩のお口に入るんだよ。変なもの食べさせられないじゃないか」 「いやいやいや!それ、恭介の希望に沿ってないから、それに何?さっきの。重箱なんて持ち出してさ。お正月はまだ1ヶ月も先だよ?」 「棗先輩はこの大不況の中で就職活動をがんばってるんだよ!卒業までには就職先見つけなくちゃってあちこち労苦を惜しまず歩き回ってるんだよ!お腹だって普通の人の倍空いてるはずじゃんか!だから、いっぱい作っておかなくちゃね♪」 「ね♪じゃないよ!もお〜…キミ、恭介のこと好きすぎて肝心なこと抜けてるんだからさあ」 「んなっ?!ちょっ理樹!ボクが棗先輩のことすっ好きだなななな」 「おもいっきり顔に出てるから」 「……気をつけます」 「それと蟹とか海老とか高いものばかりお弁当にいれるのはやめておいた方がいいと思う」 「え?」 ちょうど鮮魚売り場で高そうな蟹と海老を見つけたので早速買い物カゴへ!と入れようとしていた手がおもわず止まるは理樹の一声。 「いい?恭介はどっかの大富豪のお坊ちゃんでもなんでもないの。たしかに、普通の家よりかは多少裕福そうな環境ではあるんだけどさ、来ヶ谷さんとこみたいなレベルじゃないし、恭介自体、そういう環境化に育ってたとしても、そういうの好きじゃない方だからさ、むしろ庶民の味みたいなの目指しなよ。いつも作ってるようなヤツとか」 「ん〜それって、タコさんウインナーとかあま〜い玉子焼きとかでいいのかな?理樹が好きなものばっかりだけども」 「キミも好きなくせに」 「でも、棗先輩が好きとは限らないよ」 「恭介ならきっと理樹が作るものならなんでも喜ぶと思うよ。ただし」 ボクがすかさず「じゃあ高級蟹いりだし巻き玉子」と再び蟹を引っつかむと、しかめっつらの理樹に「そういうのはNGだけどね」とダメだしされてしまった。 仕方ないので、いつものボクのお弁当のレパートリーで妥協することに。 こんなんで棗先輩喜んでくれるかな?
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「よし!盛り付け完了!」 当日の朝、いつもより1時間早く起きて、丁寧に時間をかけて1つのお弁当を作り上げた。 大きなお弁当箱をランチョンマットで綺麗に包み込んでっと… 「ふう〜完成!!後はこれを棗先輩に届けるだけっと!」 紙袋にお弁当と水筒を入れ、身支度を改めてから棗先輩の待つ校門へと向かう。 「棗先輩〜!」 「あっ!リキ!!何やってるのさ!もおっ!ついさっきまで恭介待っててくれてたんだよ!」 「え?どういうこと?だって約束の時間は…」 「まさかとは思うけど、1時間間違えてたんじゃないの?」 「ええ〜っ?!」 「これ以上、待ってると電車の時間に間に合わないからって恭介出て行っちゃったよ」 「歩きじゃないの?」 「就職先を転々と回るときは全て歩きらしいけど、ある程度までは電車とかバスとか使ってるんだよ。全肯定、歩きで行ったりすることもあるらしいけど今回はめちゃくちゃ遠いらしいからさ」 「…そうなんだあ」 がっくりと落ち込むボクの腕を引き、理樹が前向かって歩き出す。 「何落ち込んでるんだよ!届けるんだろ?せっかく作ったお弁当!」 「でも、もう間に合わないよ」 「今さっきって僕言わなかったっけ?恭介が歩き出したの」 「え?歩き?」 「駅までは歩いてるよ」 きょとんとする僕の背中を強く押して理樹が校門の外へとボクを追いやる。 「ほらっ!走れ!リキ!!」 「うん!」 お弁当が崩れないようにしっかりと胸に抱えてボクは駅を目指して走り出す。 そんなに遠くには行ってないはずなのに、一向に棗先輩の姿が見えないよ。 「棗せんぱ〜い!どこですか〜?」 とうとう駅に辿り着いてしまい、結局先輩は見つからずにガクリとベンチに腰を下ろす。 と、そこへボクを覆うように人影が立つ。 「お?リキじゃないか。まさか直接駅に来てるとは思わなかったから、ずっと校門前で待ってたんだぜ。どこですれ違ったかなあ」 「なっ棗先輩!」 半べそになりかけていたボクの頭をわしゃわしゃっと豪快に撫でてくれるその手は紛れもなく、棗先輩の手。 「ありがとな。ちゃんと作ってきてくれたんだ」 ぐしゃぐしゃになった紙袋の中からお弁当箱を見つけ出し、それを見て満足そうに笑う先輩。 「じゃあ、いってくる」 「いってらっしゃい」 旅立つ先輩の後ろ姿が遠くなっていく。 改札口を抜け、見えなくなった先輩。 なんだか寂しいな… ふと、俯き手に何かをギュッと握り締めていることに気づく。 「うっわあ〜!!せっ先輩〜!!お箸!お箸忘れた〜!!」
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