雨のちDoki Doki恋愛予報
「あ〜もお!理樹、おそ〜い!!」 次々と傘のお迎えが来て、駅から離れていく人たち。 気がつけばボクはたった1人、ポツンと暗くなり始めた空の下、一向に降り止まない雨を恨めしそうに見上げながら佇んでいた。 今朝の予報では晴れのち曇ってだけで雨の心配はなかったはずなのに、駅を降りてみれば、突然の豪雨。 それで理樹にお迎えを頼んだとこなんだけど、駅から寮までの距離たいしたことないはずなのに迎えに来るのが遅い! 「あ〜…もう仕方ないから、濡れ鼠覚悟で走って帰ろうかな。でも、せっかくの買い物も濡れちゃうしなあ」 チラリとコインロッカーを見つめ、そこに預けて明日改めて取りに戻ればいいかな。などと思い始めたときだった。 「悪い!リキ!!待たせたな」 「え?なっ棗先輩?!なっなんで?」 通りの向こうから1人の青年が息せき切って駆けてくる姿がボクの視界に飛び込んできた。 それは待ち人理樹ではなく、棗先輩。 理樹にとっては幼馴染の名前で呼べちゃうような間柄の人かもしれないけど、ボクにとっては現在進行形で届かぬ想いを寄せ続ける憧れの先輩なのだ。 (とはいえ、自分のいた世界ではなんだけど…) 「あっあの…なんで、棗先輩が?」 「だから、こっちに飛んできてからもう1ヶ月も経ってるんだし、いい加減『棗先輩』はやめろよな。俺だっておまえのこと『リキ』って呼んでるんだから、おまえも理樹みたいに『恭介』って呼べよ。なんかアイツと同じ顔に『棗先輩』だなんてよそよそしくされると変なんだよな」 「そっそれはボクだって同じですよ!向こうではボクは『直枝』って呼ばれてたんですから!それなのに『リキ』だなんて…」 (恋人になったみたいな錯覚起こしちゃうよ) 「イヤだったのか?」 「え?いやいやいや!イヤだなんて言ってませんってば!ただ、馴染まないなあ〜というか、恥ずかしいというか…ごにょごにょ」 「おまえ、アイツと同じリキなのにやっぱり男と女ってだけで、どことなく違うんだな。付き合えば付き合うほど、同じようで違うんだってことに気づかされちまう。やっぱりおまえはリキであっても理樹じゃないんだなって」 「あ…で、その理樹は?」 「ん?ああ、そうだった。理樹の奴、ちょっと来ヶ谷たちに捕まっちまってな。でも、リキの迎えに行かなくちゃいけないからとかってやってるから、代わりに俺が来てやったんだ。すまないな、途中で鈴と小毬が傘なくて帰るに帰れないってペットショップの前で立ち往生してたから、少し遅くなっちまったんだ」 そういって、棗先輩はボクの両手に下げていた荷物のうちの1つを引き取ると「じゃあ、帰るとしますか」といってボクを見下ろす。 一瞬の間があった。 (あれ?何か足りないよね?) 改めて棗先輩を見つめなおすボク。 「あのお…」 「ん?どうした?帰るんだろ?早くしろ」 「傘…ボクのは?」 「ん?ああ。さっき言わなかったか?ペットショップのところで鈴と小毬にその傘貸したって」 「…えええええっ!!じゃっじゃあ、どうするんですか?!」 「どうするって、この傘一本ありゃ充分だろ?」 とくに意識したふうもなく、棗先輩は自分の雨傘をひょいっと掲げてみせる。 「ほら、早くこいよ。置いてくぞ」 (えええええ〜?!こっこれって棗先輩とあっ相合傘?) 「何、遠慮してんだよ。理樹なんかすぐ入ってくるぞ」 「理樹は男の子だし、それに」 (昔馴染みの付き合いじゃないか) 「別に誰も見ちゃいねえよ」 棗先輩はボクが人目を気にしてるものと勘違いしたのか、そう一言呟くとグイッとボクの空いてる方の手を引いて、傘の中に自分の脇の下にボクを抱え込むように取り込んだ。 (うわっ!ちっ近っ…) 一瞬だけ、彼の腕とボクの肩とかが触れ合った。 すぐさま、距離を置き、ギリギリ濡れない程度の距離感を保ちながら、ボクは棗先輩の隣を歩き出す。 「もうちょっとこっち来いよ。肩が濡れてるぞ」 「えっ…いやっ!」 再び、何の気なしに伸ばされた棗先輩の手にびびり、おもわず拒絶の声をあげてしまった。 緊張のあまり…やってしまった大失態にすぐさま、反省。猛反省。 「あっごっごめんなさい!ちょうど首筋に傘の雫が入ったらしくて、びっくりしちゃったんです」 とってつけた言い訳をしつつ、棗先輩の顔色を伺う。 先輩はちょっとショックを受けたような顔をしていたみたいだけど、すぐにいつものクールな表情に戻って「そうか。とにかくもうちょっと中へ入れ」とだけ言って、伸ばした手は引っ込めてしまった。 こういう場合、理樹だったら素直に肩抱き寄せられたのかな。 男の子だけど… ふと棗先輩と理樹が今のボクたちのように相合傘をしているシーンを思い浮かべてしまう。 そして同時に脳内を過ったのは西園さんの言葉。 『棗×直枝で相合傘。眼福です』 仲睦まじげにいちゃつく2人を妄想して、ショックのあまりに頭を激しく振ってしまった。 「おい。大丈夫か?」 「え?あっはい!だっ大丈夫です」 「でも、おまえ顔真っ赤だぞ」 (そっそれは先輩のせいであります!) 心配そうに顔を覗きこんでる先輩とガチで見つめあっている自分に気づき、高鳴る鼓動は急上昇。 姿勢はカチッと硬直状態になってしまい、なんか金縛りにあったみたいに動けないよ〜。 おもわず、ギュッと目を閉じるとボクはそのまま意識が遠くなるのを感じた。 激しい目眩と遠のく意識。 「おい!大丈夫か?!リキ!おい!!」 消えゆく意識の中、大きな腕がボクを抱き込む感じを覚えて、幸せな気持ちの中、ボクは自分を見失った。
※ ※ ※
「ん…あれ?ここ…はどこ?」 「あっ良かった。リキ。目、覚めたんだね」 気がつくとそこはベッドの上。 周りの光景からしてどうやら理樹の部屋のベッドの上らしい。 上半身を起こして、ボクは心配そうにボクを見つめるもう1人のボク、理樹を見つめ返した。 「ちょっと熱あったみたいだね。ごめんね。僕がすぐに迎えにいってあげられなかったから、風邪ひかせちゃったみたいだ」 「あっううん。大丈夫…それより、棗先輩は?」 「冷たい飲み物でもってさっき出て行ったところだよ。すごく心配してたよ。俺のせいだって」 「なんで?気を失ったのはボク自身の不注意で」 「違うんだ。リキをあんなに待たせたのは…ホントはきょ---」 理樹が何か棗先輩のことを言おうとしたときだった。 部屋の戸が開き、棗先輩が部屋へ戻ってきた。 「おっ!目、覚めたか。もう大丈夫か?」 「うん。大丈夫みたいだよ。熱もないみたい」 「そうか。良かったな。リキ」 「あっありがとうございます。それと心配かけてごめんなさい」 「いいって!そもそも俺が理樹をコイツを引き止めたりしなけりゃ、もっと早くにおまえをコイツが迎えに行けたんだしな。悪かったな。寒い中、待たせちまって」 「…ねえ、理樹。どういう」 「とりあえず、もう少しここで寝ていきなよ。夕飯の時間になったら起こすから」 --詳しいことは後で話してあげるから… そう理樹に耳元で囁かれ、ボクは静かにベッドに横になった。 (また雨降ればいいのにな…そしたら、今度こそ最後まで先輩と…)
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