夢渡り人 時代越えし瞬間(とき)

6.ダイアロス漂流

--ザザーァン…ザザザ…

眩しいまでの太陽が照りつける午後の空。

そこに現れたのは怪しい黒ずくめの商人風のコグニート男と、大和撫子を極めんとする割には威勢のいいエルモニーの娘。

2人は釣竿片手に砂浜を歩いていく。

「さあ、兄様(あにさま)!本日の晩御飯を釣りにいきますわよ!」

「うむ、承知したぞ!しかし、妹者(いもうとじゃ)」

「あら?どういたしましたの?」

「なぜ、イプスではなくユグなのだ?」

「それは言わずと知れたことではありませんか!ワタクシたち兄妹の夢はいつかまたあの豪邸を建て直すことですのよ!まあ、土地はここでなくてもよいのですが、本日は釣りという目的のため、ユグを選ばせていただいたまでですわ!」

「他人の家を眺めながらの釣りか!ハッハッハッ!なんとも言えず屈辱なことを私にさせてくれるものだな!妹者よ!」

「あら、そうでもしないと兄様のこと。いつまでたっても重い腰をお上げにならないかと思いまして」

「ハッハッハッ!なかなか言うではないか妹者よ!」

「ウフフッ…そんなことありませんわ!兄様!」

笑顔で互いにさりげなく毒舌をかましあう兄妹。

しばらく無言の威圧的なにらみ合いを終えた後、2人はようやく歩を進めた。

「ではそろそろ良い釣り場でも見つけてレッドフィッシュでも釣るとするか」

「兄様、どうせならもっと大物を目標になさりませんこと?」

「たとえばどんなだね?」

「そうですわね〜…たとえば」

そう呟きながら、妹が辺りを見渡しながら一言。

「人ですわ」

「ハッハッハッ!人か…人ならたしかに大物だな…ん?妹者よ。人とは釣れるものなのかな?」

「違いますわ!人が倒れていますわ!」

「何?!むっ!本当のようだな」

妹が指差す視線の先。

そこに倒れていたのは間違いない。夢だ。

夢は砕けたボートの破片の一部と共にここへ流れ着いていたらしい。

彼女の手首の先には、彼女が波に呑まれる前に仙太郎と自分を結んだと思われるリボンがしっかりと巻きついていた。

しかし、その先に繋がっていなくてはいけない仙太郎の姿はなく---。

※ ※ ※

--息が…息ができない。

苦しい…力が…力が入らない。

ダメ!

手を離しては!!

仙ちゃん!!

お願い…手を…離さないで…このリボンをしっかりと…

するりと握り締めていた手がほどけ、感じていた体温は一気に失われた。

その後のことは覚えていない。

ただ、手首に巻きつけたリボンがギュッときつくしめつけられていた感覚はしばらく続いていたのは間違いない。

でも、激しく地面に体を叩きつけられた感触の後、ボートが砕けるバリバリッという音を聞いてからは不思議と痛みとか感じなくて、手首をしめつけていたリボンもフッと緩んだような気がしただけだった。

《仙ちゃん…どうか…この世界で生きていて》

---私が必ず 見つけ出すから

「仙ちゃん!!」

--ガバッ!!

悪い夢から逃げ出すようにして、夢は勢いよく上半身を起こし目覚めた。

「良かったですわ。お薬が効いたようですわね」

ハッとなって声をかけられた方を見て夢は、一瞬「え?」と目を丸くした。

「どうか…されましたか?」

「あ…その…」

夢は目の前の少女を…とくに耳をジッと見つめたまま、固まっていた。

(この子…人間…じゃないよね?耳、とんがってるもの。それに…不自然なまでに腕も太いし…)

「大丈夫ですか?」

「あ…はあ、まあ」

目覚めたての頭では処理できなかった。

自分がさっきまでどこにいたのかもうやむやで、ましてやすぐ傍にいた大切な人が1人いないことも夢はすぐには認識すらできなかった。

ただ、ハッキリしているのはここが自分がさっきまでいた世界ではないことだけ。

「とりあえず、念のためにもう1本飲んでおきましょうか?少し苦いですけど、良薬口に苦しですわ」

呆然としている夢を気にもせず、少女は膝の上に置いていたリュックから小さな赤い小瓶を一本取り出して夢へと手渡した。

「これを飲めば完全回復ですわよ」

「…どうも」

「それではワタクシは兄様のところへ戻りますわね。それと、あなたが今気になることはワタクシより、ここの家の主《イーノス》にお聞きした方がよろしいでしょうから」

薬にむせびく夢を後目に少女はゆっくりと腰を上げると夢に軽く一礼をしてから、部屋を出て行った。

それと入れ替わりに入ってきたのは猿のような顔をした小柄な老人。

「お目覚めのようじゃな。ユメよ…女王イルミナの求めし娘」

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