夢渡り人 時代越えし瞬間(とき)

5.急く旅立ち

「どこへ飛んでいったの?!」

「どこって…まっすぐ」

「まっすぐって!!」

「知るわけないだろ!!一瞬の出来事だったんだからよ!」

2人がワアワアと言い合っている間にも、ダイアロスの道しるべの青い鳥はどこかへ行ってしまうだろう。

「私、探してくる!」

「あっ!おい!待てよ!残りの授業はどうすんだよ!」

「具合が悪くなったから早退したっていっておいてよ!」

「おい!」

チャイムが再び鳴り響く。

廊下を歩いていた生徒たちはすみやかに教室へと戻っていく。

その間を縫うようにして夢は駆け足で昇降口へ向かう階段を駆け下りていた。

(きっとさっきの声…そして、急にいなくなったあの鳥…そしてイルミナ)

いろんなことが瞬時に同時に起きて、夢の頭は混乱していた。

(とにかく、まずはあの鳥よ。あの子を捕まえなくちゃ!夢の中ではあの鳥は私へと送られたものっぽかった。そしてあの声…私にしか聞こえてなかった…きっと、全部私に関係がある。ダイアロスと…)

ひとつの答えを見出し、最後の一段を降りたときだった。

「うわっ!」

「キャッ!」

もう授業が始まろうという時間だというのに、まだ廊下に人が残っていたらしい。

夢は階段を下りた先で、鉢合わせた1人の男子生徒とまともにぶつかり、その反動で転びかけてしまう。

「おっと!ごめんっ!大丈夫かい?」

「あっはい…(て。うわっ…かっこいい人)」

だが、瞬時にぶつかられた相手の生徒が、素早く夢の手を引き、彼女は軽くよろめいただけで何とかバランスを保つことができたようだ。

夢は一瞬、目の前の見たことのないイケメン先輩にドギマギしながらも、すぐに我に返り、慌てて、彼にお詫びの言葉を述べるとすぐさま、降りしきる雨の中、靴を履きかえると迷わず外へ飛び出すのであった。

「あっあの!ごめんなさい!失礼しました!」

「あっキミ!」

自分の脇をすり抜け、慌てて何かを追って飛び出した夢を呼び止めるように手を伸ばした後、彼はすぐにその手を引っ込め、意味ありげな視線を彼女へと向けながら、眼鏡をスッと押し上げ呟いた。

「いよいよ、動き出したか…」

※ ※ ※

降りしきる雨の中、何かに導かれるようにして、夢は1人裏門を抜け、雑木林を駆け抜けていた。

「ねえ!どこ行っちゃったの!!あなた一体何者なの?!イルミナは私に何を--」

叫ぶ夢の声に反応するように何か黒い物体が夢めがけて襲い掛かる。

「キャアアッ!」

「危ない!」

間一髪、夢めがけて飛びこんできた仙太郎によって2人は泥まみれになりながらも黒い物体の襲撃を回避することができたようだ。

「せっ仙ちゃん!」

「大丈夫か?」

「なんで?どうして?」

「なんでもどうしてもあるかよ。例の手紙も地図も俺が持ってるんだぜ。旅をするにはこれがないとダメだろ?それに…約束は守らねえとな」

「約束…」

「まっ覚えてなくてもいいけどさ。ただ、俺は俺の信念を通したいからついてきたんだ」

スッと夢の両肩を抱きかかえて立ち上がると、仙太郎は黒い影がまた襲ってくるのではないかと周囲を気にしながら、夢に雑木林の切れ目を指し示した。

「とにかくここを出るんだ。少しでも見渡しのいいところへ移動するぞ」

「うん」

仙太郎はサッと夢の手をつかむと全速力で雑木林を駆け抜けていく。

時々、襲ってくる黒い影を何とかかわしながら、2人は湖の前にたどり着いていた。

「この先にこんな湖があったなんてはじめて知ったぜ」

「私もだよ…それに」

夢は何かに気づいたらしく震える指である一点を指し示す。

「見て!あの子!!あのボートの上にいる!!」

「よし!いくぞ!!」

「うん!!」

2人がこちらへ向かっているのに気づいたのか青い鳥もまた大きく弧を描きながら、けたたましく鳴きはじめた。

黒い影は2人を青い鳥に近づけさせたくないのか、さっき以上に執拗に2人に攻撃を仕掛けてくる。

「っ!!」

「仙ちゃん?!」

「大丈夫だ。ちょっと切られた程度だ。いいから、早くボートに乗ってそのシートで身を隠せ!!」

「でも!!」

「俺がボートを漕ぎ進める。アイツらどうやら泳ぎは得意じゃないようだからな」

仙太郎の言うとおり、足こそ速いが地に足がつかない場では移動ができないらしく、黒い影はそのまま地に吸い込まれるように消えていくではないか。

「よかった」

「けど、まだ油断はできなさそうだな」

激しく叩きつける雨がシートを深く被る夢の頭にイタイほどに響く。

湖の湖面が風に煽られ、次第に波のように激しくうねりはじめ、それはまるであの荒れ狂う大海の中、ダイアロスを目指す旅人そのものに夢は感じられた。

「仙ちゃん!もういい!ボートを漕ぐ手をとめて!私の手をしっかりと握ってて!!」

「どうしたんだよ?急に」

「離れたら…もう二度と会えないかもしれないの!だから!!」

夢の目は真剣そのものだったこともあり、仙太郎は言われるままに夢の手をしっかりと自らの両手で握り締めた。

夢は空いているほうの手で自らの髪を結わいていたリボンをさらりと振りほどくと、自分と仙太郎の手首をしっかりと結びつける。

「絶対に離しちゃダメだよ。手が離れそうになったらこのリボンの端を握ってよう」

「分かった」

互いにリボンの端を端を拳の中にしっかりと握り締めた…

瞬間---。

2人の頭上を弧を描いて飛んでいた青い鳥が眩い光を放ち、激しい閃光と共に2人の乗るボートを包み込んだ。

---バリバリバリバリッ!

「うわあああっ!」

「キャアアアアッ!!」

2人の乗るボートは粉々に砕け散り、2人は荒れ狂う波に一瞬にして呑まれていく。

しっかりと握られてた手と手が荒波の中で次第にほどけてゆく。

(ダメ!…正夢にしないで!!)

しっかりとリボンの端を握り締め、息苦しさの中、消えゆく意識の先に一瞬だけ見えたのは青いリボンの先に見える仙太郎のしっかりとリボンの端を握り締める拳だけだった。

(仙ちゃん…お願い…死なないで)

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