夢渡り人 時代越えし瞬間(とき) 12.地図に隠された秘密 「え?イルミナの地図って…」 仙太郎から半ば強引に地図をもぎとると、イーノスはさらに丹念にイルミナの地図と呼んだものを調べていく。 「文字通り、彼女が書いた地図じゃよ。ワシも直接見るのははじめてじゃがな。この筆跡を見る限り、間違いなくイルミナのもの」 「ああ、それなら俺も知ってるぜ。トレハン仲間たちの間で有名だからな。”超難易度の高い地図に『イルミナの地図』ってのがある”ってな。ただ現物はおろか、贋作物さえ流出してないってくらい超レア級の地図だぜ。それ」 「あー、それなら私も知ってるわよ!宝の方だけどさ。私もフレッサから昔、聞いたことあるもの。それにアルケィナの間じゃ、けっこう有名だしね。そのイルミナの隠した秘宝ってのが魔導士たちの間で話題になってるもの」 リジュとkyoもイルミナの地図という言葉に過敏に反応したかと思うと、仙太郎の背後からそれを興味深げに覗き込んでくる。 しかし、当の地図の持ち主の仙太郎は彼らの言葉にただただ首を傾げるだけ。 むしろ、それが地図だという事実を今知ったような口ぶりでこう答えた。 「え?俺、それてっきり手紙かと思ってた。だって、よく分からない文字と記号しか綴られてなかったから」 「ええっ?!そうなの?私たちの世界じゃ、地図って言ったらこういうものよ。昔のダイアロスの言語で書かれているものだから、全ての民が読めるわけじゃないけど、地図はみんなその地名・宝物の埋まっている座標を明確に記してあるだけなのよ」 「へえ〜。俺、てっきり地図って言ったらこうやって地形を絵で書いたようなものだと思ってたんだけどな」 そういって、仙太郎は夢が昔書いて渡してくれたというダイアロスのどこかを記した地図の方をポケットの底から引っ張り出してみせた。 「何、これ?ダイアロス…とは書いてあるけど、地形が大雑把過ぎてどこを書いたんだか分からないわね。この×印は何?」 「ああ。これは夢いわく、お宝の在り処だそうだ。まっこれアイツが書いたの、小学生の頃だからな。もう10年近く前のだし、地図としての能力は相当低そうだけど…でも」 次々と人の手を渡っていく地図を見送りながら、仙太郎は最後にその地図を手にしたイーノスへと向かってこう告げた。 「アイツはここの世界の文字で「ダイアロス」だけは書けたんだ。俺たちが、そのイルミナの地図がダイアロスからのだって分かったのも、その単語だけが解読できたから。ただ、なぜ夢がダイアロスの言語を知ってて、その世界の地図を書けたのかは未だに分からないんだけどさ」 --たぶん、今回の件で何か分かるかもしれない気がしてさ。 そう、仙太郎が呟けば、イーノスもまた夢の書いた地図と、イルミナが書いた地図とを見比べて大きく頷いてみせた。 「うむ。たしかにそうじゃのう。現にこの2つの地図は全く同じ場所を示しておるようじゃ。夢の地図はたしかに大雑把で分かりづらいかもしれぬ。じゃが、このイルミナの地図と照らし合わせれば---全てはワシも解読できてはおらぬが、少なくともこれが同一の場所を示してるらしいことまでは分かったからの」 「ええっ?!じゃあ、ユメは誰も見たことのないと言われているイルミナの地図を見たことがあるっていうの?」 「そうじゃ。それもセンタロウの10年前という話から、幼い頃にという推測が立てられる」 「でも、ユメもセンタロウも異世界の人間だぜ。それがどうして…」 「それは追々、時が解決していくことじゃろう。今はそのことを呑気に探っている場合ではない。むしろ、素早く行動を起こすべきじゃろう」 スッと目の前に座り込んでいた仙太郎へと地図を2枚返しながら、イーノスは自分の斜め後ろで黙って彼らの話を聞いていたティキイへと振り返り、指示を送る。 「さて。ではティキイよ。今の話を聞いてのとおりじゃ。ワシらはもう一度、例のことを探る前にユメに会う必要ができたようじゃ。ネヤへ行く支度をしておくれ」 「はい。分かりました」 ティキイはイーノスの言葉に大きく頷くと、すぐさま半壊した家屋へと繋がる橋を渡って屋内へと消えていった。 イーノスは続いて、彼の後ろで興味深げに話に参加していたリジュとkyoへと視線を送る。 「ところで、お主たちはこの後どうするつもりじゃ?見たところ、センタロウの護衛か何かでついてきたと言った感じじゃったが?」 「ええ。アタシとkyoはミスト様にセンタロウを守れと言われて、こうして一緒に行動をしていました」 --いました。 その言葉に仙太郎はドキリと胸の奥が大きく跳ね上がるのを感じた。 (もしかして、リジュさんたちは今の話聞いて、これ以上付き合いきれないって思って帰っちゃうのだろうか?) 短い間とはいえ、彼女らは全く関係のない自分のために黒い影の見えない脅威を背にここまで連れてきてくれた心強い仲間ともいえる存在だった。 しかし、そう思っていたのはあくまで自分だけだったようだ。 彼女らはミストの言う通り、ヌブールのイーノスの元へ無事に仙太郎を届けた時点で、自分らの用は済んだと思ったのだろう。 だからこそ「行動している」でなく「していました」と言ったのだ。 仙太郎は少し残念そうな顔を2人へと浮かべながらも、静かに重い腰を上げ立ち上がった。 そして、イーノスらと共に単身、ネヤへ向かう覚悟を決めたときである。 リジュが彼の耳を疑うような言葉を放ったのは---。 「でも、これからは自分たちの意思でセンタロウとユメのために彼らと行動を共にしたいと思ってます!いいよね?センタロウ!アタシたちも一緒に行っても!」 「え?でも…今の俺たちの話聞いたでしょう?俺たち、よく分からない敵に命を狙われ」 「だからなんだってんだよ!むしろ、ワクワクするじゃねえか!しかも、これから未だ誰も挑戦したことのない究極の宝探しをするんだぜ!なあ?」 仙太郎の言葉を遮るようにして、kyoもまたついてく気満々な様子で「俺たちもすぐに旅支度しねえと!」と言って、グレートエスケイプを発動し、リジュと共に一路銀行へと駆け戻っていく。 「すぐ戻ってくるから置いてかないでよねー!」 2人はアッという間にいなくなり、仙太郎は感謝の言葉を伝えるタイミングを見失ってしまったかのように、ボーッと立ち尽くすのであった。 (リジュさん、kyoさん…みんな。ありがとな) |