| --あの時、あの場所で貴方に出会っていなかったら きっと今の私はここにいなかったでしょう 男の子としての私は きっと… せめて貴方を感じられる場所にいたくて 「ただいまー」 「あっおかえり…って!アンタ、その頭どうしたの?!」 「おかえりなさいです〜!ギャアッ!リッリキちゃんどうしちゃったんですか〜!」 家に帰るなり、私は1つ違いの姉と妹に絶叫される。 「あはは〜。ちょっと気分転換にバッサリ切ってくださいって頼んだら、ショートヘア勧められちゃってさ。せっかくだからおもいきってやってもらっちゃった」 軽くなった頭を掻きながら、私は美容院の帰りに寄ってきたスーパーの買い物袋を2人に半分ずつ持ってもらうと、そのまま台所へと向かった。 2人は唖然としたまま、私をしばらく見つめていたが、とりわけ深く追及することもなく、その後はとくに何もないまま過ごした。 --私が髪を切った理由。 それは本当は気分転換とかじゃなくて、単に衝動的なものだった。 (制服も借りてきたし、明日の放課後から行ってみよう。会えるといいな) ドレッサーの前に座り、鏡の向こうの見慣れない髪型の自分を見つめながら、私は少しだけ後悔していた。 ずっと伸ばし続けていた髪をこんなにもバッサリと切るなんて、しかも男の子みたいな短さに一気にしてしまった。 はじめての試み。 我ながらよくやったなぁと思う。 でも、こうでもしないと私にはあの人と面と向かって話す勇気すらない臆病者。 別の自分になれば、きっと出せると思った勇気。 (明日、私は男の子になる。男の子の直枝リキに…) 私は借りてきたあの人と同じ高校の男子制服を見つめながら、高鳴る胸の鼓動をその手で確かめる。 (どんな形でもいい。できることなら、あの時助けてもらったお礼が言いたい。でも、あの時と性別が違うんだし、無理な願いかな?とりあえず、また会えたらそれだけでいいや) 私はそう思いながら、そっとカーテンを引き、窓の外から差し込む月明かりに自身の思いを馳せていた。
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--あの人。 棗恭介さんに出会ったのは、私がいつも乗るバスの中だった。 その日はいつもよりバスが混んでいて、普段は座れるはずの私は珍しく吊り輪に捕まり、列の中ほどに立っていた。 ギュウギュウ詰めの車内で、私が体に違和感を覚えたのは自分が降りるバス停の3つ前の場所だった。 (…何?やだっ痴漢?) さわっと誰かの手が私のお尻の辺りに触れた。 でも、一瞬だけだったこともあり、私はてっきり混みあっている中でうっかり手が触れただけだろうと思い、何事もなかったかのように再び視線を窓の外へと向けた。 しかし… (え?嘘…やだ!どうしよう) 二度目… 今度は触れる程度のものではなく、撫でるように何度も執拗に触れてくる。 幸い、私の学校のスカートは他校と比べると丈が長く、膝下まであるからそう簡単にスカートの中にまで手は入れられないとはいえ、それでも服の上を這いずり回る手の感触は気持ち悪い。 私は自然と体が恐怖に強張り震えるのを感じながら、グッと唇を噛み締め、残り2つの停留所が過ぎるのを黙って待つことにした。 だが… 「おっと!すみませんねぇ〜。俺、この後降りなきゃいけないんで通りますよぉっと!」 誰かが私と、私の体に執拗に触れていたその人との間に割って入ってきた。 (…たっ助かった) 俺と痴漢行為をしていたらしき人との間に入った人は、私の親友の小毬と同じ学校の制服を着た男子生徒だった。 彼はさりげなく私の後ろに立つと、そのまま次の停留所までずっと私を庇うように立っていてくれた。 私はそのとき、助けてくれたことに礼を言おうかと思ったのだが、もしも本当にただ降りるために間に割って入っただけだとしたら、なんか恥ずかしいしと思って結局何も言えずに、彼と次の停留所で別れてしまうのであった。 それから数日。 あの日以来、彼の姿を同じバスで見ることはなかった。 もしかしたら、あの日だけ偶然この時間に乗り合わせただけだろうか? そう思い、わざと1本早くしてみたり、ギリギリになるが1本後のバスに乗ってみたりもしたが、彼と乗り合わせることはその日以来二度となかった。 (お礼…言っとけばよかったかな?) 今思えば、私はあの時、あの一瞬。 彼のさりげない行為とちらと見たその美麗すぎる容姿に一目ぼれしていたのだと思う。 もう二度と会うこともないのだろうか? そう思った瞬間、私はどうしても我慢できなくなって、一度だけ小毬に会いに行くふりをして彼のいる学校を訪れたのだ。 そして知った彼の名前と、親友の小毬が彼と友人以上の仲である真実。 (棗…恭介さんか。せっかく名前分かったのに、まさかの小毬と親しい間柄だったなんて。そうだよね。あれだけかっこいい人だもん。彼女いない方がおかしいよ) --これで終わりなのかな? せめて、お話だけでもしたいな。 そんな思いに駆られ、私は自分でも信じられないある一大決心をしたのだった。
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--それがこの男装して彼と同じ学校の生徒として、彼に近づくことだった。 異性として彼に近づけないのなら、せめて同性として彼の傍にいたい。 友人でいい。 彼のことをもっと知りたい。 そんな小さな欲が私をここまで突き動かしていた。 他人から見れば、ホント馬鹿馬鹿しい決断だと思うだろう。 でも、私は本気だった。 叶わない恋だと覚悟をした上で、せめて貴方の傍に…あなたを感じられる場所にいたかったから---。 だから、明日から私は…ボクは男になります。
--今はまだこうでもしないと貴方に近づけないボクだけど、いつかは私に戻ってあなたの友人としてでいいから、傍にいられるようになりたいです。
-end- あとがき-- 久々のリトバス読みきり。 なんとなく、理樹リキ♀のリキ世界の話での男装リキの話の馴れ初めかきたくて… 冒頭であるリキの姉と妹は捏造直枝三姉妹のリジュとリコです。 理樹の世界との違いとして、こっちのリキには姉妹がいることになってます。 両親も健在となっている。 ただ、リキ以外は基本メンバー反転してないかなあ?って感じで… 久々すぎて上手くキャラ動かせず、ほぼリキの1人語りでしたね。 2011/10/2 |