| あなたがあの子を好きなことは知っている でも私の気持ちも分かって欲しいと願うのは我侭ですか?
消せない想い 溶けない君への恋心
いつもと同じ時間。いつもと同じ曜日。ボクは必ずここへ顔を出すのが日課になっていた。 そこは小毬と鈴さんが通う学校の校門前。 ボクと同じ制服姿の男子生徒たちが学校から出てくるのと、入れ違いに何気ない顔をして中へと入っていく。 誰かと目が合うたびに独り言のように「忘れ物しちゃったなあ」などと、呟きながらボクは昇降口付近まで歩いていくと、こっそりと3年の下駄箱目指して早足で歩いていく。 (えっと〜棗…棗…っと) 普段は何気なく校舎内を歩いて、運が良ければ話したかったあの人と話せる程度の繰り返しだったけど今日は違う。 とりあえず、これだけは置いていきたくてボクはようやく見つけた彼の下駄箱を前に緊張した面持ちで鞄の中に忍ばせたバレンタインチョコを取り出す。 それを下駄箱に入れるか入れないかの辺りで、聞きなれた人の声が頭上から響いてきた。 「…直枝?」 「あっなっ棗先輩!あの…」 「なんだ?鈴なら小毬と先に帰ったぞ」 「あっそうじゃなくて…えと」 予想外の展開にボクはこのままチョコを渡すべきか否かで迷った挙句、今自分は棗先輩と同性の男を演じてることを思い出し、結局鞄にチョコをしまいなおすことにした。 「…そうだ。ちょうどいいから少し付き合ってくれないか?」 「え?」 おもわず手にしていた鞄を手放してしまった。 バサッと大きな音を立てて、落ちた鞄の中から探していたものと一緒に広がるノートや小物入れたち。 「あわわっ!」 「おまえ、時々小毬みたいなことするよな」 慌てて荷物を拾い集めるボクを手伝いながら、棗先輩が一瞬見せた優しい笑顔。 何も知らない頃のボクだったらきっと、素直にうれしいと思える贈り物だけど、今のボクにはむしろその笑顔を出させたものがなんであるか知っているだけに、その胸はチクリと痛むだけ。 さりげなく棗先輩がボクのチョコを手にとった。 「これ…バレンタインのか?」 「あっ…あの---そうです」 『棗先輩に』と言いかけつつ、慌ててその言葉を呑みこんでしまう。 棗先輩を知ってから、3年間。毎年作ってきてたのに一度も渡せずじまいで終わっていたチョコ。 だから今年は、どんな形でも棗先輩に近づくことができたから、おもいきって直接は無理だとしても贈りたいと思って用意したのに…失敗した。 ガックリと首うなだれるボクに棗先輩は不思議そうに首を傾げているように見えた。 「貰い物か?それとも…まさかとは思うが、お前から俺宛ってことはないよな?なんかさっきお前、このチョコ俺の下駄箱へ入れようとしてた風にも見えたんだけどな。もしかして、クラスの女子にでも無理強いさせられたのか?」 「あっ!いえ、そうじゃないんです。あの…それ、ボクが棗先輩にとっ友チョコって男が男にそんなのおかしいですよね。やっぱり」 「まあ、あまり聞かない話かもな」 「こっ小毬が知っている人のチョコくらいなら気持ちとして貰ってくれると思うよって言ってくれたから、それで」 とっさに小毬の名を口にし、何とかその場を取り繕おうとしたボクはいったい何なんだ。 自分では認めたくないくせに、やっぱり小毬は棗先輩にとって特別な存在だと位置づけている気がした。 小毬の名を出せば、受け取ってくれなさそうだった空気のチョコも受け取ってもらえる。そんな気がしてボクは… なんて嫌な子なんだろう。 そう心の中では思いながらも、鞄を肩に掛けなおし、ボクは遠慮がちに棗先輩を見上げる。 「そうだな。直枝は鈴の友達だし、せっかく用意してくれたんだしな。ありがとう。貰っておくよ」 「あっありがとうございます」 「おまえが礼をいうところか?変わってるな」 軽く微笑んでくれたような気がした。 今度は小毬に似ているからじゃなくて、ボク自身のことでだ。 おもわず顔が真っ赤になってしまう。 今にも雪が降り出しそうな冷たい空気が頬を突き刺してくるのに、熱が下がらない。 「それじゃあ、今度は俺の用件…聞いてくれるか?」 「あっはい。そうでしたね」 一時的に高まった感情もその一言が温度を下げる。 ボクは棗先輩について、どこへいくともなく歩き出した。
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