カレのヒミツは彼女の秘密(京天(♀)+拓)

「待たせたな」

「…いえ」

夕焼けが辺り一帯を眩いばかりのオレンジに染める中、俺は屋上へと上がってきた2つの人影に目を細めた。

逆光を浴び、キャプテンとその斜め後ろを遠慮がちに歩いてきたのは、男の方の松風だった。

「さて、何から話そうか」

俺の隣へと立つと神童は少し迷いながらも、1つずつゆっくりと2人の天馬の秘密を俺へと打ち明けていった。

「つい1ヶ月前まで、おまえの傍らで一緒にサッカーをしていたのは、今、ここにいる天馬じゃなくて病室にいる俺の妹の天馬だった」

話を聞けば、松風という姓は神童の母方の旧姓らしく、天馬は男として雷門へ入学する際に、敢えて兄の神童に迷惑をかけまいと、兄にすら内緒で「松風天馬」として雷門へ入学してきたらしい。

その際に松風は神童家を自ら離れ、母方の親戚筋の木野秋の管理するアパートで「松風天馬」として暮らし始めたという。

「アイツは俺に内緒で、大好きなサッカーを俺と同じフィールドでしたいと我侭を言って、両親を説得し、そして男としてサッカー部へとやってきた。今の中学サッカー界がフィフスセクターの管理下にあることも何も知らずにな」

それからは、俺も知っての通りのことだとキャプテンは語る。

「天馬は女であることを隠し続け、人一倍見えない努力を重ねてきた。そして知らず知らずのうちに自身の体を…足を酷使し続けていたんだ」

--気づいてやれなかった。兄として…

キャプテンがそういって、グッと自らの拳を握り締めれば、黙って彼の話を聞いていた松風が「拓人様は悪くありません!」とおもわずと言った感じで口を挟んでいた。

「マスターは…天馬お嬢様は覚悟なさってました!こうなることを…。だから、俺をあなたに内緒で作らせていたんです。お嬢様の分身である俺を」

今度はキャプテンに代わって松風が俺に自身のことを語る番だった。

松風は自身が精密に作られたアンドロイドだということを話し始めた。

「俺は…人じゃありません。天馬お嬢様の能力を引き継いだ、体は機械で埋め尽くされた人造人間みたいなものです」

性別は敢えて彼女の希望どおりの男として生み出された。

そう松風は語る。

「本当は最後まで、剣城や拓人様と一緒にホーリーロードを戦いぬきたかった。それがマスターの本音。でも、それももう適わない。だから…せめて、その意思だけでも俺が代わりに叶えたくて、彼女が去ったフィールドへと舞い戻ってきた」

--本当はもっと剣城の傍にいたかった。

ボソリと俺だけに聞こえるくらいの声で、松風が呟き捨てる。

「マスターとあなたが交わした約束。これからは俺が引き継ぐから!だからっお願いだから」

--マスターのこと見捨てないであげてください。

できることなら、一度だけでもいい。会ってあげてほしい。

物凄い力で松風が俺の両腕を握り締めれば、俺はあの日…松風が--女だった松風がまだフィールドにいたときに交わした約束を思い出す。

『俺…剣城のこと好きだよ。って言ってもさ、サッカー選手としてっだけどね//』

『あったりまえだろぉが!男が男に特別な感情もたれたらきしょいだけだろ!』

『うっうん…だよね。でもさっ!それでも…俺、剣城と選手としてでいい。これからも剣城の隣で一緒に強くなりたい。いつか、剣城をサポートできるような選手になりたい!』

『松風…っ//』

なぜかあの時、アイツが見せた笑顔に胸の奥がドクンッと大きく跳ねた。

『だから、約束しよう!これからも一緒にサッカー続けていこうって!ずっと同じフィールドで!』

『ああ。おまえとなら、約束してやってもいいぜ』

そういって、俺は松風の差し出した手をしっかりと握り締めた。



--あの時の約束。

あの時はこの不思議な感情の出所の意味が分からなかったが、今なら分かるような気がするよ。

おまえが本当は女だったって事実を知った今ならさ。



「約束…」

「ああ。分かってる。だが、その約束…おまえとは果たせない」

「え?」

「あの約束は今のおまえとじゃなく、あの時、あの場所にいた”神童天馬”と交わした約束だからな」

「…剣城」

キャプテンが驚いた風な顔を一瞬見せた後、俺の言葉を理解したかのようにふわりと微笑んだ。

「キャプテン。これからアイツに文句の1つでも言いに行ってきていいですか?どうしても、言いたいことが1つあるんで」

「ああ。いってこい。まだ面会できる時間だしな」

「でも、拓人様…」

「いいんだ。行かせてやれ」

スッと2人の脇を通り抜け、俺は階段を駆け下りていく。

(天馬っ…諦めるなんてまだ早いぞ!バカがっ!約束は他人に託すものじゃねえだろ!諦めんな!まだ僅かな望みがあるんなら、それにすがりつけ!おまえはそういう奴だろ!)

--頑固で融通がきかなくて、その上諦めが悪いバカ野郎。

それが松風…いや、神童天馬なんだからな!

俺は彼女がいる病室の前へと辿り着くと、勢いよく中へと飛び込んでいく。

「…っ//つっ剣城?なぜ…おまえがここに」

驚く彼女を前に俺は迷わず、彼女を抱きしめこう言うんだ。

「ふざけんな!バカ天馬っ!勝手に俺から逃げてくんじゃねえよ!」

ってな---。

--1人じゃ乗り越えられない壁でも、2人ならきっと超えられるから。

奇跡を起こせるから…

だから、約束…

自身の手で叶えてくれよな?

-end-