照れ屋さんと名前呼び(雪天♀+葵)
「おーい!雪村〜」
「雪村ってばぁ」
「ねえ、雪村?」
「じゃあね〜!雪村〜」
ふと疑問に思ったの。
それは本当に些細なことなんだけど、気になったこと。
私はその疑問をある日の昼休みにおもいきって天馬へとぶつけてみた。
「ねえ、なんであなた、雪村先輩のこと名前で呼ばないの?」
「ふぇ?なっなにさ。葵。唐突に」
今日の5時限目は体育ということもあって、いつもならこの時間は雪村先輩のとこへ行っちゃう天馬も着替えなくちゃいけないこともあって、ジャージをロッカーから出しながら、移動の準備をしていた。
私もまたジャージを両腕に抱え、天馬の机の方へと歩み寄ると、天馬と教室を出ながら、さっき聞いた話の続きをする。
「だって、あなたたち付き合ってるじゃない?普通、恋人同士ともなれば名前で呼び合ったりとかしない?ましてや、あなたたち付き合ってそろそろ半年にはなるんだし」
「えっ///あーまあ、そうだけどさぁ」
途端に顔を赤くして、口ごもる。
何この子。変なところで初々しくって可愛いじゃない。
おもわず、クスッと笑えば、天馬が頬を膨らませて「なんだよぉ」と不機嫌そうだ。
私は慌てて「ごめんごめん」と謝ると、階段を下りながら、なんで「名前」で呼ばないかの理由を探る。
「いつも「雪村〜」って名字、呼び捨ててるくせに。どうせ呼び捨てするんなら、名前で「豹牙〜」って言っちゃえばいいじゃない。むしろ、その方が雪村先輩に好意を寄せてる先輩たちに対していい牽制になるわよぉ〜」
「んにゃっ////そっそれは確かにいい案だけど…でも、ちょっと…もにょもにょ」
「なによぉ〜。もしかしてあなた、名前呼びが恥ずかしいの?」
「うっうるさいなぁ!!いいだろぉ別に////」
「へえ〜…名字でなら平然と呼び捨てられるのに、名前呼びは恥ずかしいんだぁ。見た目は男勝りなじゃじゃ馬なのに、そういうところはホント、純粋すぎて可愛いんだからぁ」
「うっ!いいだろぉ!別に!!おっ俺だって、よっ呼ぼうとおもえば、アイツのことひょっひょっひょう…ひょう///」
「なんだ?豹がどうかしたか?」
不意に私たちの背後から渦中の人の声が降りかかる。
当然、天馬はその声にビクッと大きく肩を震わせて、ズサッと反射的に距離をとりながら、声の主を振り返る。
「あっひょっいや、雪村?」
(あっ今、無意識のうちに名前で呼びそうになった)
おもわず、こっそりと吹き出しそうになるのを必死に堪えれば、天馬の視線が物凄く痛く刺さるのを感じ、慌てて素知らぬ振りをする。
「どうした?アンタ、顔赤いぞ。そんなんで体育できるのか?保健室行くか?」
「えっ////いやっ平気!だから!!じゃっじゃあな!俺、急ぐから!!葵!早く行くよ!」
雪村先輩はまさか天馬が顔を赤くしている理由が、あなたの名前を呼ぼうとして恥ずかしさに呼べずに詰まっていたなんて知る由もなく、熱でもあるのかと思ったみたい。
いつになく優しく接されたせいで、ますます顔を赤くした天馬は照れ隠しに、そっぽを向くと逃げるように更衣室へと向かって駆けて行ってしまった。
それも私を置いてだ。
私が堪えきれず、声をあげて笑えば、雪村先輩が「何か知ってるだろ?その顔は」と言ってきたので、これまでの経緯をご丁寧に教えて差し上げた。
「へえ…可愛いとこあるじゃん」
「と言う訳なんで、できたら今度、私が近くにいるときでいいんで、さりげなーく「名前で呼んでくれないか?」とか促してもらえませんか?」
「ん?そうだな?面白そうだし、その話乗ってやるよ。天馬がどんな顔して、俺のこと”豹牙”って呼ぶのか見たいしな」
「それじゃあ、お願いしますね!」
まさか私を置いてきたことによって、こんな約束事が交わされようとは、天馬も思ってなかったでしょうね。
それから数日の間、天馬は部活のたびに雪村先輩に「名前呼び」と耳元に囁かれては、顔を真っ赤にして逃げ回るのであった。
さてさて、あの子が恥ずかしさを捨て、素直に彼のことを「豹牙」って呼べる日はいつ来るのかな?
親友としても放っておけない一件である。
-end-
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