ぶきっちょさんとうさリンゴ(雨天♀+冬)

「あっ!太陽くん!また勝手に抜け出してたのね!」
「やべっ!冬花さん!」
「待ちなさい!」
「待てるかよっての!」

ある日の午後のこと。
僕は暇で暇でしょうがなく、早く天馬が見舞いに来ないかと病院内を彼女を探して歩き回っていた。
そんなときに限って、冬花さんに見つかる。

「いいの〜?私にそんなこと言って」
「え?何が?」
「太陽くんの彼女なんだけどね。えと名前は天…」

冬花さんがいつものように口うるさい母親みたいに、僕を叱る声。
僕はまた冬花さんのお説教喰らうのも嫌だったから、すぐさま反対方向へと駆け出す。
しかし、今日の冬花さんはいつもと違った。
余裕の笑みでまさかの切り札。
天馬の名を口にしたのだ。
当然、この僕が天馬の名を聞いて止まらないわけがない。

「天馬がどうしたの?!」
「はいっ捕まえたっと!」
「うわっ!ずるいぞ!冬花!!」
「はいはい。文句を言うのはベッドに入ってからね」

冬花さんは勝ち誇った笑みで、僕の肩をしっかりと掴むとニッコリと可愛い笑顔を見せて、その外見とは裏腹の腕力でしっかりと僕を拘束するとそのまま部屋へと連行して行くのであった。

※ ※ ※

「いい?何度も言うけどキミは病人なの。いくら、体調がいいからってむやみやたらに動き回らないでね」
「ただ歩き回っていただけだよ」
「あら?そうかしら?どうせまた外でサッカーボール蹴ろうとか思ってたくせに」
「もうしないよ。だって約束したからね」
「へえ。太陽くんにそこまでサッカーを我慢させるなんて、天馬ちゃんて凄いのね」
「なんで、天馬だって分かったのさ」
「分かるわよ。太陽くん、天馬ちゃんにべた惚れだもの」
「まあ、否定はしないけどさ」

部屋の前につくと同時に、冬花さんが僕から手を離す。

「じゃあ、後はもう安心かな?」
「いいの?ここで帰っても?また僕外へ出るかもよ」
「絶対出ません。だって」

そっと半開きになっていた扉の向こうを覗き込む冬花さんに釣られて僕も、中を覗き込む。

「天馬っ!いつのまに」

そこには慣れない手つきで、リンゴの皮を剥き続ける天馬の後ろ姿があった。

「さっきね、見かけたの。私が声をかけてもしばらく気づかないほど夢中になって、リンゴ剥いてたわよ。聞いたら「太陽に食べさせるんだ」って。「うさぎの形にしたいけど、うまくできない」って苦戦してたから、1つ見本置いていってあげたの。あれから、ずっとがんばってたみたいね」

--ホント、愛されてるわね。太陽くん。

そういって冬花さんは僕の背をポンッと押すと「かなりの数剥いちゃってるけど、全部食べてあげなさいよね」と言って持ち場に戻っていったようだ。

僕は「言われるまでもないよ」と軽く返すと、迷わず彼女のとこへと歩み寄っていく。
そして、そっと天馬を後ろから強く抱きしめるんだ。

「ありがとう」

って言葉を添えてね。

--天馬が剥いたうさリンゴはどれも不恰好で、ひどいのなんか片耳が削がれてるのもある。
時間を置いてしまったものは色まで変わってる始末だ。
でも、それでもね。
僕にはそのうさリンゴが一番の特効薬になるんだ。

「やっぱり、天馬が剥いたリンゴが一番おいしいよ」
「そお?えへへ〜♪良かったぁ!どうせなら、可愛くしようと思ってうさリンゴにしたんだよ!」
「うん。どれも天馬に似て可愛いよ」
「っ////バカ…」

顔を真っ赤にして、身の少ないうさリンゴを照れ隠しに頬張りながら、小さく笑いかけてくれる。
その笑顔が大好きだから、僕はいつだってキミを独り占めしたいって欲張るんだね。
だからこそ、キミが剥きすぎたリンゴでさえ、雷門へ持ち帰ることを拒んでしまう。

「…でも、こんなに食べきれないだろ?」
「彼らの腹に納まるくらいなら、僕が全部食べちゃうよ」
「お腹壊したりしないでよ?」
「平気だよ」

--だって、僕はそれほどにキミが好きで仕方ないんだからさ。

-end-