俺にはいらぬサプライズ(雪天♀蘭)
--冬休みが終わり、新学期がはじまった。
2年最後の年の3学期である。
「あーなんかさ、来年のこの時期には俺たちも受験生かぁって思うとなんか憂鬱になるよなぁ」
「霧野が憂鬱だなんて言葉使うなんて何かあるんじゃないか?」
「はあ?どういう意味だよ!それ」
--そう。
その時はまさか、神童の言った「何か」が本当に起こるとは思わなかった。
もし、俺がこれから1時間先の未来を見ることが出来たのなら、きっと滅多に使わないマイナス発言は出なかっただろうから---。
※ ※ ※
いつものように朝練に参加する。
ベンチサイドには今年も可愛い天馬が寒がりちゃんならではの完全装備で、ボールを丁寧に磨いている姿が見える。
心なしか、機嫌がいいように見えるのは気のせいだろうか。
ふと、クリスマスにあのムカつく雪村が天馬に会いにわざわざ北海道から出てきたという記憶を呼び起こしてしまい、複雑な気持ちになる。
正直なとこ、あまり認めたくはないが、雪村は天馬の恋人である。
あのたった一時の出会いで、あっさりと恋人関係を結ぶとは…。
天馬も天馬だが、アイツもアイツだろ!
何で、俺がこんなに苦労して天馬を悪い虫から守ってきたと思ってんだよ!
アッとイウマニ奪ワレマシタ…なんてしゃれにならねえんだよ!
ギリギリとそのときの怒りを思い起こしては、拳を握り締めていると、狩屋が天馬が信助に話していたらしい会話をさらに同学年の剣城、影山へと回しているらしい声が聞こえてくる。
「…まあ、たぶんウチはないとは思うんだよね。だって、ほらっ俺転校してきたばっかじゃん。だから、あるとしたら剣城んクラスか、影山のとこの可能性高くね?」
「それ以前に彼って1年だったっけ?」
「松風は1年だって言い張ってたぞ」
「じゃあ、1年なんじゃね?俺もよく覚えてねーけど」
「でも、なんで部活に顔出さないんだろ?今日からなんでしょ?」
「…部活の方はたぶん午後練から来るんじゃね?天馬さんの話だとコーチも一緒とか」
「まあ、俺たちにとってはあまり好ましくない報告だけどな。ポジション面でも、個人的な面でもな」
「あはは…たしかに」
「そっか…アイツもたしかFWだったもんな」
そこまで話終えた辺りで、鬼道監督が全員を招集する声が聞こえ、俺は結局アイツらがいう転校生が誰なのかをハッキリと確認できないまま、部活を終えるのであった。
※ ※ ※
神童、山菜と一緒に教室へと戻ると、やけに周りが騒がしい。
とくに女子。
山菜も何か知っているのか、早速とばかりに近くの女子の輪に入っていき、情報交換を始めだした。
俺と神童はとくに噂話に興味も湧かず、そのまま自分たちの席へと鞄を置きにいく。
しかし、周りは俺たちを必要としているらしく、数人の女子がワッと俺と神童の行く手を阻んだ。
「何?」
「霧野くんたち、サッカー部じゃない?そのぉ、もう転校生来たかな?って思って」
「え?転校生?そういや、狩屋たちも今朝話題にしてたっけ」
「誰か、転校してくるのか?それもサッカー部にいたことのある?」
「らしいよぉ。しかも、ホーリーロードで雷門と戦ったことのある学校の子だってことまでは分かってるんだから!」
「だから、てっきりもう今日から練習に参加してるのかと思ったんだけどなあ」
「それで、今朝はやけに見学者が多かったのか」
彼女らの会話から、俺たちは朝の練習時間帯に、いつもより女子が集まっていたことを思い出し、その理由に辿り着く。
「噂だと彼、2年のクラスに来るって話だったし。ウチだといいよね!」
「誰かが今朝チラッと見たって言ってたけど、けっこうイケメンだって言ってたし!あっもちろん、霧野くんや神童くんもかっこいいけど!」
「コーチの人も同じ中学の出身って話だったけど…」
「コーチも?」
そこまで彼女らが勝手に喋った辺りで俺と神童は、たった1人思い当たる人物に辿り着く。
同時に鳴り響くチャイムに、彼女らをはじめクラスメイトは全員、そそくさと自分の席へとついていく。
俺も神童も軽く目を見交わした後、とくに語り合う時間もないままに席へとついた。
(とりあえず、整理しよう。まず、天馬が最初に狩屋たちに転校生の話題を漏らしたっぽかったよな)
先生が来るまでの間、俺は今朝の経緯から今の彼女らの話を1つずつ頭の中で整理していく。
(そして、今の話。転校生はホーリーロードで雷門と当たっている。さらに今日就任予定というコーチがいて、その人も転校生と同じ出身校の人。その上、天馬がよく知る人物となると…)
俺がそこまで絞ったときだった。
先生が教室内に入ってきたようだ。
俺は慌てて意識を前に向け、日直の号令に従って挨拶をし、再び席に着く。
気持ち廊下側の人間がざわついていることに気づき、視線をそちらへと向ければ、先生がそれを察したように、お決まりの文句を口にした。
「もう、知ってる人も多いようだけど、今日からこのクラスで一緒に勉強することになった生徒を1人紹介します」
「雪村くん、入ってきて」
「はい」
澄んだ声が廊下から聞こえてきて、ガラリと入り口の戸が開く。
とたんに女子生徒が黄色い悲鳴をあげて、俺は同時に「やっぱり、おまえか!」と我を忘れて、壇上に上がる雪村を指差していた。
「霧野…くん。ああ、まさかキミと同じクラスになるとはね」
「あー…そうだな。雪村。まさに因縁の再会ってわけだ」
おもわず、互いに殺気だった目で睨みあえば、周りの目線も興味深げに俺と雪村を交互に見ている。
神童に至っては、「最悪だ」とぼそりと小声で吐き捨て、俺たちを交互に見据えると胃を擦っていた。
そして、唯一この気まずい空気に無反応なのは担任の先生。
「ああ、そうだったわね。白恋と雷門ってホーリーロードでぶつかったことあったものね。ちょうどいいわ」
何を思ったのか、ポンッと手を打つと名案とばかりに、とんでもない指示を俺の後ろの奴に言い出したのだ。
「じゃあ、田中くん。そこの席替わってもらっていい?それで雪村くん。霧野くんの後ろね」
「「えっ?!なんでまた!!」」
「だって、知ってる人が近くにいた方が最初の頃は何かと安心できるでしょ?だから」
「だったら、せめて神童の方に!」
「でも、霧野くんの方が仲良さそうだったから」
「……」
この先生、天馬並みに鈍感なんじゃないか?
そう思いながら、俺は返す言葉もこれ以上なく、雪村もまた渋々ながら俺の後ろへと腰を下ろすのであった。
「まあ、そういうことだからよろしくな。部活も午後練から顔出すから。それと」
「なんだよ」
「天馬には今までみたいにちょっかいださせないから、覚悟しとけよ」
「っ〜!!」
こうして俺の2年生最後、最悪の3学期が幕を開けたのだった。
-終わり-
おまけ〜
「えっ!雪村って2年生だったの!俺、てっきり同級生かと思って、HR終わった後、全クラス探し回っちゃったよぉ」
「アンタなあ…マネージャーなら、ちゃんと対戦校のデータくらい把握しとけよな!っていうか、今まで知らなかったのかよ!」
「うん…。背丈も同じくらいだったし、話しやすかったから同い年だと思ってたし…。あのさ…俺、もしかしたら物凄く失礼な態度とってた?」
「あーいや、別にいいけどさ。ほらっ俺たち付き合ってるんだし!な?」
「あっそうだよね!じゃあ、これからも変わらずによろしくね!雪村〜」
「ああ、よろしくな!天馬」
午後練早々、俺の目の前で見せつけるように天馬といちゃつく雪村。
なんかムカつく。
「あのっ!霧野先輩!」
「ん?なんだ?天馬」
「えと…雪村のことお願いしますね!同じクラスってお聞きしたんで」
「あっああ…ほどほどにしといてやるよ」
「???…お願いします?」
天馬が俺の虫の居所の悪い原因が、自身の恋人のせいだと気づくのはいつだろうか?
たぶん、あの鈍感さじゃ、ずっと気づかないだろうな。
-end-
|