絶対に言えない!(京天♀優)

※もう基本、ウチの京天♀は幼なじみでいいよ!
とにかく天馬♀に「京介」って呼ばせたい!
あっ「剣城」呼びが好きって人いましたら教えてくださいね〜。
そっちの方のも時々、作りますんで。

※ ※ ※

「京介ー!!」

年が明け、入院中の兄さんとの最初の面会日。
アイツが小さな風呂敷包みを片手に下げて、病室へ入ろうとノブに手を掛けた俺を呼び止める。
俺は心の中で「うざい女」と思いながら、ドアを開ける手を止めて仕方なしに振り返った。

「…松風。またおまえかよ」
「むぅ〜またはないだろう!または!それに」

ピンッと人差し指を立て、松風は俺に向かって「て・ん・ま〜」と頬を膨らませながら、俺の鼻先を指で突く。

「いいだろ。別に」
「よくない〜!!小さい頃は普通に”てんま”って呼んでくれてたじゃないか!なのに、俺が沖縄へ越して、10年ぶりに戻ってきたと思えば、知らない間に他人行儀よろしく”松風”だもんなぁ」
「どうだっていいことだ。じゃあな」
「て!待てよ!俺も優兄のお見舞いに来たんだからさ!」
「兄さんの?」
「うん!ほらっ!これ持ってきた」

そういって松風は自慢げに手に下げていた風呂敷包みを高々と掲げてみせる。

「なんだよ。それ」
「おせち料理〜。いちおう看護士さんに許可貰ってきたから大丈夫だよ!せっかくだから、京介も一緒に食べよ」
「……叔母さんが作ってくれたのか?」
「ほとんどはね。でも、俺も手伝ったんだぞ!」

ただでさえ、育ちすぎてる胸をより強調するように胸を張りながら、自信満々に言う松風を無視して、俺はさっさと兄さんの病室へと入っていく。

「あーっ!京介!!置いてくなよ〜!!」

慌てて俺の後を追って、中へ飛び込んできた松風は兄さんの顔を見るなり、10年ぶりの再会だというのに、構わず無邪気にはしゃぐ仔犬のように俺に風呂敷包みを押し付け、兄さんの腕の中へと飛び込んでいった。

「優兄ー!あけましておめでとう!覚えてる?俺、天馬だよ」
「天馬ちゃん?へえ、びっくりしたよ。見違えるほど綺麗になったじゃないか。それにあの頃よりもずっと大人っぽくもなったみたいだね」
「えへへ〜。やっぱり優兄は京介と違ってちゃんと見てるよねぇ」

嬉しそうに顔を綻ばせ、兄さんに頭を撫でてもらっている松風。
その光景を目の当たりにしたとき、なぜだかキャプテンや霧野先輩らが松風を可愛がっているときと同じ胸の痛みを体に覚え、ちょっとだけ不快感を覚えてしまったようだ。

(チッ!またあの感覚だ。それもキャプテンや霧野先輩じゃなく、兄さんに対して…俺はいったいどうしちまったんだ)

これ以上、松風が兄さんの腕の中で甘えているのを見ているのも辛く、俺は無理矢理松風を兄さんの体に障るからと引き離していた。

※ ※ ※

「うわあ〜。さすが叔母さん。相変わらず手の込んだ料理を作るよね」
「まあ、だてに調理師免許は持ってないよ」
「別に兄さんはおまえのことを褒めたわけじゃないだろぉが」
「いいんだよ。京介。叔母さんもそうだけど、天馬ちゃんもけっこう料理の腕上げてきてるみたいだし。ほら」

そういって兄さんは、俺に松風が作ったと言い張る煮物を箸にとり、俺の口元へと持っていく。
俺は松風がしつこく見つめてくるのをうざいと思いながらも、兄さんの親切心を無碍にすることなどできずに素直に煮物を一口頬張った。

「どお?おいしい?」
「…母さんの味付けの方が好きだな。ちょっと味濃すぎないか?」
「え〜?俺はこれくらいが好きなんだけどなあ…優兄はどう?」
「そうだね。まあこれはこれで好きだけど、やっぱり母さんの味付けの方が俺たち兄弟には好みかもな」
「そっかあ。じゃあ、今度叔母さんに聞いておくよ!」
「聞くのはかまわないが、母さんも忙しいんだから、あんまり迷惑かけんなよ」
「分かってますよぉだ!」
「ハハ…相変わらず、2人は仲がいいな。10年も離れてたにしては、しっかりと意思の疎通がとれてる。まるで、俺たちの父さんと母さんみたいだ」
「「なっ?!」」
「そっそうかな//」
「んなことあるわけねえだろ!」
「反応はそれぞれ違うみたいだけどな」

俺たちをからかうように、そう言いながら兄さんは再びおせち料理に手をつけ笑った。
松風もまた、大好きな栗の甘露煮を頬張りながら、「ほらっ京介も食べなよ」と割り箸を一膳、俺へと突き出してきた。

--なんか懐かしいよな。

ふと、3人円を描くようにこうして座りながら、重箱をつつき合う光景におもわず、自然とだろうか俺は笑みを浮かべていたようだ。
松風がフフッと口元を綻ばせながら、嬉しそうに俺に向かってこう呟く。

「久しぶりに京介の笑顔見れた」
「あ?何言ってんだよ。バカ」
「だって、京介ってば、俺が転校してきてから一度も俺の前でも、他の部員の前でもこうやって笑ったことなかったから!ずっと心配だったんだ…」
--優兄の前でも笑ってないのかな?って…

最後の一言は、兄さんに聞こえないように気を遣っての小声で俺の耳元にだけ囁く。
松風のあの頃から変わらない綺麗な空のように澄んだ青い瞳が、微かに揺れた。
同時にズキンッと胸の奥を突く痛み。

「…天馬」
「…え?」

彼女を心配させていたのかと思った瞬間、俺は10年前の…まだ天馬と遊んでいた頃の俺へと戻っていたようだ。
おもわず、吐き出した彼女の名前に自分でもびっくりして、同じように俺を見て驚くアイツを前に自身も軽く凍りついていた。

「今…京介。俺のこと、自然と名前で?」

みるみるうちに赤くなる頬は、俺だけじゃない。
目の前のアイツも同じだ。
俺は慌てて、天馬から視線を外すと照れ隠しでもするかのように、スッと席を外す。

「俺、お茶でも買ってくる」
「あっ京介!!」
「おまえは兄さんのこと見ていてくれ」

逃げるようにして、病室を離れる。

席を立つ前、一瞬だけど視界を過ぎった、あの天馬の可愛らしい笑顔が頭について離れない。

(変わってねえよな。ったく…相変わらず、おまえは可愛いチビ助のままだ)

--ここに来てやっと気づいた。
俺が何で天馬を”松風”と呼ぶようになっていたのか。
それはただ、彼女を名前で呼ぶのが恥ずかしくなっていただけだったのだ。
昔みたいに意識せずに”天馬”と呼べなくなっていただけだったのだ。
それは本当に簡単な理由からで…

(あーあ。分かっていても、これだけはぜってぇアイツの前では言えねぇな)

自販機でペットボトルのお茶を3つ買いながら、そっと苦笑する。

--俺がアイツを異性として意識してただなんてさ。
口が裂けても言いたくないし、知られたくない事実。

それは本当に小さな男のプライドというものだろうか。
「好きだ」と自分から伝えるよりも、好きな女の口から俺を「好きだ」と言わせたい。
ましてや、あの”天馬”相手なら尚更に…

「もうしばらくは敢えて”松風”と呼んでおくか」

どんな方法だっていい。
とにかく、アイツを俺に繋ぎとめておけるなら、それもいい。
そして、いつか周りの目を気にせず、アイツを抱きしめ好きなだけ名前を呼んでやればいい。

--天馬ってな。

-end-