「あーあ。今頃、みんなはサッカー棟でパーティーかぁ」
「行きたい気持ちは分かるけど、病み上がりなんだから、我慢よ。その代わり、明日!私が腕によりをかけて、おいしい料理を振舞ってあげるからね」
「本当?」
「ええ。それに明日はあの人も帰ってくる日だから」
「秋姉の恋人の?」
「そう。だから、明日は3人でパーティーね」

軽い食事を終え、秋姉が洗い物をするのをテーブル越しに頬杖をつきながら眺めてる。
秋姉は今日のみんなとのパーティーに俺が行けなかった代わりにと、俺のためにせっかくの恋人との貴重な時間をここで過ごすことに決めたことを俺へと告げた。

「えっでも…悪いよ。楽しみにしてたんでしょ?明日のデート」
「いいのよ。別に。私もあの人も、どこでデートとかよりも、ただ久しぶりに直接会って話せるのが嬉しいんだから、場所なんて関係ないもの。それに」
--病み上がりの天馬を1人になんてできないでしょ。

本当に気にしてないから。
そんな口ぶりで秋姉は、明日のことを思ってか気持ちいつもより浮かれてるように思えた。
俺はそんな秋姉を見つめながら、ふと自分と雪村とを重ね合わせていた。

(逢えるだけで充分か…。俺も…せめて今日くらいは雪村と一緒に過ごしたかったな)

風邪で気持ち心が弱っているせいもあってのことだろうか。
おもわず、彼を恋しく思ってしまう。
いつも以上に…
でも、彼は遠い遠いところにいるわけで。
「逢いたいよ」といったところで、来てくれるわけもなし---。
俺がおもわず、切なさにぺタリと冷たいテーブルの上に顔を突っ伏したときだった。

「すみませーん!秋さーん!天馬、起きてます?」
「あっ葵だ!いいよ、秋姉。俺、直接いってくる」
「あっでも、天馬。その格好」
「いいよ。葵だし」
「違うのよっ!お見舞いに来たのは葵ちゃんだけじゃなくて…」
「え?」

秋姉がパジャマ姿のままで飛び出していった俺を呼び止めた時にはもう遅かった。
共同玄関の前に立つ葵ともう1人の人影を目にした途端、俺はおもわず下がった熱が一気にあがるのを感じていた。

「ふぇっ//なっなんで!なんでおまえがここにいるのさぁ!!」
「いたら悪いか?」
「おしっ!予想通りの反応ごちそーさまです!」

ニヤリと悪戯っぽい笑みを雪村の斜め後ろから浮かべながら、葵はそう言い放つと呆然と立ち尽くす、俺へと向かって雪村を押し出し、そしてくるりと踵を返すと一言。

「後はあなたに任せるわ!じゃあね!!」

といって無責任も帰ってしまうのであった。

「あーおーいー!!」

※ ※ ※

「…なんで、おまえがここにいるのさ」
「その言い方はないだろう。年明けから、毎日顔を合わせることになる相手に対してさ」
「へ?今、なんて…」

葵の雪村強制連行によって、仕方なしに彼を部屋へ上げることになってしまった。
気まずい雰囲気の中、あんなに会いたくて仕方なかった恋人なのに、なぜかあまりに唐突すぎたせいか拍子抜けして、ついいつもの素直じゃない俺が今ここにいる。

「だから、アンタには俺からのクリスマスプレゼントと称して、ギリギリまで内緒にしておこうと思ってたんだけどさ、俺…吹雪先輩の援助もあって、雷門へ転校することができたんだ。年明けの新学期から天馬と同じ雷門へ通う」
「…ウソ。だって雪村」
「アンタと同じ。両親と離れて暮らす形になった。でも、吹雪先輩が一緒に来てくれたから。雷門のコーチになった。今、円堂さん不在で鬼道さんが監督になったんだろ?それでコーチの枠が空いてるからちょうどいいだろうってなって」
「ななっ何そんな大事なこと今まで黙ってたんだよ!転校するってことは、そんな急なことじゃなかっただろうし、前々からそういう話してたんだろ?なのに…なんで」
「だから、アンタを驚かしたくてだな!って…おい。なんで泣くんだよ」

雪村に言われて気づく。
たしかに俺、泣いてる。
無意識のうちに涙が溢れて出ていることに気づくと同時に、今度は意識した感情が高まってさらにぼろぼろと涙が止まらなくなっていた。

「だっだって…うれし…だもん。雪村…ずっと一緒…寂しく…なくなるからぁ〜」
「天馬…俺も嬉しいよ。本当はさ、もっと早くに転校したかったんだ。でも、両親がなかなか首を縦に振ってくれなくて。『サッカーなら白恋にいてもできるだろう』って…。説得するのに苦労したんだぞ」

そっと頭を撫でられ、ぐしゃぐしゃの顔のまま視線をあげれば、次の瞬間には雪村の腕の中に抱きしめられていて、ますます俺の感情は昂ぶって、俺は落ち着くまで彼の肩に顔を埋めて泣きじゃくっていた。

--ずっと欲しかった温もりがここにある。
ずっと聞きたいと思っていた彼の声が、電話越しでなく直に聞ける。
もう我慢しなくてもいいんだ。
好きなときに、好きなだけ逢えるんだから…

「天馬…」
「雪村…//」

涙に濡れた頬に彼の両手が添えられる。
ずっと忘れていたあの日、はじめて触れ合った唇の柔らかな感触が、俺の涙で濡れた唇に改めて重ねあわされていく。
これからは、好きなときに好きなだけ…
キミに甘えてもいいんだよね。
そう幸せを噛み締めながら、俺は愛しい人との聖夜を過ごしたのだった。

※ ※ ※

「…で、これがアンタの俺へのクリスマスプレゼントか?」
「うっ//まあ、ね」
「ふぅん。でも、実物の方が何倍も可愛いけどな。ありがたく貰っておくよ」
「んにゃっ//可愛いとか真顔でいうな!バカァッ//」
「あっでも、その怒った顔の方がバカっぽくて一番好きかな?」
「ゆーきーむーらー!!」

郵送で送るつもりだった俺と雪村を模ったフェルトで作ったマスコット人形は、今彼の手の中で2人仲良く納まっている。
きっと彼はこの先も知ることもないことだとは思うけど、その人形にはね、俺の小さな願いが込められていたんだよ。
まっ送る前に叶っちゃったんだけどさ。

--いつか、この人形の俺たちのようにずっと、2人離れずに傍に居続けられるようになりますように。

-end-