恋する微熱(南天♀)

--きっとこれは熱のせいだ。
俺は布団に潜り込みながら、そう何度も自分に言い聞かせていた。

「…い。おい。起きてんのは分かってるんだぞ。天馬。いい加減、観念して布団から出ろ!」
「嫌です〜!絶対、出ません!!」
「出なきゃ、体拭いてやれないだろおが!いいから出ろ!!」
「だっだから!なんで南沢先輩が俺の体拭くとかいいだすんですか!そんなの、秋姉に後でやってもらいますから、帰ってください!」
「帰っ…てなあ!おまえ、それは恋人に対してひどいんじゃないのか?」

--恋人。

毎度のことながら、この単語に慣れない俺がここにいる。
ましてや、相手はめちゃイケメンで定評の南沢先輩である。
未だに彼がなぜ俺を選んでくれたのかが分からない。
そして、無駄にこうも意識してしまう自分が情けなくもあるのだ。
対等でいたいというのに---。

布団の中でもんもんとしていると、とうとう痺れを切らしたのか、布団が頭の上から引き剥がされてしまったようだ。

「うひゃっ!寒っ」
「あーあ。ひどい顔だな…せっかくの可愛い顔が台無しだ」
「かっかわ//」
「どうした?その顔は熱で赤いのか?それとも、今の言葉に反応しての赤ら顔か?」
「どっどっちでもないです!」
「どっちでもなけりゃ、なんで赤いんだ?ほらっ早く脱げ。背中だけでも拭いてやる」
「……//」

相変わらず、彼はずるい人だと思う。
普通、恋人の素肌を目前にして何も感じないものだろうか?
俺はあまり自慢じゃないけど、これでも女らしい体といえば、それなりに自信はある方だ。
きっと南沢先輩のいう大人の女に体つきだけは一人前になってるとは思う。
でも、この反応は正直へこむ。

南沢先輩は用意してきた洗面器に浸しておいたタオルを絞ると、とくに気にもせずに淡々とした表情で汗でべっとりとしていた俺の背中を拭っていく。

「どうした?熱のせいで機嫌でも悪いか?」
「そんなんじゃ…ありません」
「もしかして、何かエッチなことでも期待してたのか?」
「ちっ違いますってば!」

俺がドキンッと大きく胸を弾ませ、さらに小さく縮こまったことを丸まった背中から理解したのか、南沢先輩は楽しそうにククッと喉を鳴らしながら、わざとらしく背中から上半身裸の俺を抱きしめてきた。

「うひゃっ//なっせっ先輩??」
「やっぱり意識してるのか?可愛いな。天馬は」

そっと耳元に息を吹きかけられ、甘い声色で囁かれたら、そりゃあ熱も上がります。
俺は強張る体をさらにキュッと両手で抱きながら、彼の手がそっと外されるのを背中越しに感じる。

ホッとしたような残念なような複雑な感情が自身の中でグルグル回る。

結局、何事もないまま、体を綺麗に拭いてもらい、新しいパジャマへと着替えなおした俺は再びベッドへと潜り込む。
南沢先輩はそんな俺の前髪を掻き分けると、優しく額にキスを落としながら「まだ微熱が残ってるな」と呟いた後、もって来たリンゴを1つ、俺のために剥いてくれた。

「ほらっうさぎリンゴだ。おまえ、こういうの好きそうだからな」
「だっだから!俺を子ども扱いするのはやめてください!」
「そうか。じゃあ、口移しで食わしてやろうか?」
「やっやっぱり、そのままでいいです。いただきます//」

苦笑しながら、南沢先輩はリンゴを一欠け、フォークに刺して俺の口元へ運んでくれる。
俺は今だ冷めない、今やどっちからくる微熱か分からない高揚感に襲われながらも、この滅多に経験できないやりとりもたまにはいいかな?と思わざるを得ないのであった。

--早くあなたのために、大人になりたいよ。
でも、今はあなたとこうして触れ合うために、上がる”恋の微熱”を大事にしたいと思うから、だからもう少しだけ待っててね。

「ほらっもう少し上品に喰えよ」
「うにゅ…先輩こそ、もう少し優しく拭いてくださいよぉ」
「おまえにはこれくらいがちょうどいいんだよ」

シャリシャリと音を立てて、リンゴ頬張る俺を見て満足げに微笑み、顎に滴る汁を指先でそっと拭ってくれる。

「うん。甘酸っぱくてちょうどいいな」
「ふにゃあっ//もおっ!南沢先輩!」
「悔しかったら、おまえも俺に微熱出させてみろよ。女の魅力でな」
「……//」

とりあえずはこの関係の上を行くのは当分、無理そうです。

-end-