そよかぜのタクト(拓<=>天♀)
--キミを好きだと気づいたとき。
何かが俺の中で大きく変わった。
人は恋をするとこうも自身を強くさせることができるのだな。
気づかなかったことがたくさんありすぎて、思考回路が追いつかない日々が続く。
小さな異変に過敏に反応し、喜怒哀楽を繰り返す。
キミというたった1つの存在が、俺の日常を変えていく。
今も…こうして---。
※ ※ ※
「そう。そしたら、次はこう糸をかけて抜くの」
「こっこぉですか?」
「う〜ん。もうちょっと緩く編まないと、後で針が通らなくなって困るよ」
「はうっ!一段飛ばしちゃった…」
「大丈夫。やり直せるから。がんばって」
「はい!ありがとうございます!山菜先輩」
最近、天馬が山菜の元を訪れるのをよく見かけるようになった。
休憩時間、昼休み、そしてサッカー部の練習が終わったあとの十分ほど。
必ず、天馬は山菜の元へといき、何かを必死に教わっているのだ。
それが何かを知ったのは、今日。
天馬がいつも持ってくる紙袋の中から覗く毛糸玉と編み針からだった。
「なあなあ、神童。あれ、もしかして誰かのクリスマスプレゼントとかだと思わないか?」
ふと俺が遠目に教室の外に立つ2人を眺めていると、霧野もそれに気づいたのか俺の隣の空いてる席を拝借すると、椅子に腰掛け、俺へとそっと耳打ちをしてきた。
俺はその言葉に、一瞬ピクリと大きく反応するも、すぐに冷静さを装い「だろうな」とだけ無関心を装うように答えてみせる。
本当は、今すぐにでもその相手が誰なのか、天馬本人聞き出したいくらいなのに、勇気がだせずにそれができそうにもない。
霧野は俺の心中を察したのか、さりげなくにやつきを抑え切れない笑みのまま「天馬に聞いてきてやろっか?」だ。
俺はその言葉に、おもわず「やめとけ」と腰を浮かした霧野を引き戻してしまう。
(聞けば、きっと天馬は「霧野のため」というに決まってる。そんなことになったら、霧野だって天馬のこと嫌いじゃないようだし、きっと2人の関係は一気に距離を縮めてしまうだろう。どうせ、そうなることが分かっているのなら、少しでも後がいい)
グッと机の下で強く拳を握り締めると、俺は山菜に励まされ、興奮気味に頬を染めて微笑む天馬を見つめ、胸の奥が苦しくて耐えられないのを誰にも気づかれないようにと、窓の外を眺める振りをするのであった。
無駄に広い部屋に1人、篭りながら今日届いた小箱の蓋を開ける。
中からでてきたのは小さなドームの中に入ったガラス細工のペガサスと少女。
少女は俺の依頼したとおりの天使のような微笑を讃え、隣に立つペガサスを見つめて、歌を歌う仕種をしている。
ドームを軽く傾ければ、下に積もった雪が舞い上がり、ひらひらと少女とペガサスの上へと再び舞い落ちる。
全て、俺が頼んだとおりに精巧に作られたオルゴールを前に、俺はなぜかそのネジを回すことができずに、再びそれを机の上へと押しやり、うつ伏せた。
「こんなの…渡してもきっと天馬は困ったように笑うだけだろうな」
ふと天馬の誕生日プレゼントへと贈ったテディベアのことを思い出し、俺は彼女と俺の金銭感覚の違いを皮肉った。
「あの時も、天馬は困ったように笑ってた。「万単位のプレゼントなんてはじめてだ」と、受け取りながら、申し訳なさそうにしていた。他の奴らからのプレゼントは何の迷いもなく受け取っていたのに…」
目の前のオルゴールとて、全てオーダーメイドの世界で1つしかないもの。
当然、値段でいえば天馬の感覚からしてみればとても受け取れるものじゃないと言われてしまうだろう。
でも、大事なのはそのオルゴールではなく、そこに刻まれた曲にある。
オルゴールにしたのは、その曲をいつでも天馬の聴きたいときに聞いてもらいたかったから、そうしたのだ。
「この想い…届けない方が彼女のためなんだろうな」
ふと、オルゴールを受け取りながら困ったように笑う彼女を想像し、俺は再び届いたばかりのオルゴールの曲を確認することもなく、箱の中へとしまうのであった。
※ ※ ※
あれから半月。
今日はクリスマスイヴ。
天馬はあの日以来、山菜に頼る必要もなくなったのか、2年の教室の前でも部活終了後も山菜と一緒にいることはなくなった。
ただ、分かっているのはかなり熱心にそれに取り組んでいるらしいということだけ。
そして、天馬が手作りのクリスマスプレゼントを作成している事実を知っているのも、ごく一部だけだということだった。
「いよいよだな」
「何がだ」
「何って、天馬のクリスマスプレゼントだよ!誰に渡すか分かるだろ?」
部活が終わり、寒空の中、白い息を吐きながらベンチに投げ出してあった各々のジャージを羽織り、次々とサッカー棟へと駆けていく部員たち。
俺と霧野もマネージャーとしての後片付けをする天馬たちに、一言告げてからサッカー棟へと戻っていく中、ふと霧野がにやにやしながら意味ありげに俺に話しかけてきたあの言葉。
俺は相変わらず、天馬の気持ちに気づく素振りすらみせない親友に、おもわずため息をつきつつも、敢えて教えてやる優しさも出ずに適当に受け流す。
「ああ、そうだな。なんか今日はやけにそわそわしてたしな」
「とりあえず、俺は先帰っておく。おまえは部誌書いたりと仕事まだあるんだろ?」
「あっああ。でも」
「なんだよ?俺に残っててほしいわけ?」
「いや…せめて天馬が帰るまでいてやったらどうかと思ってさ」
「はあ?なんで俺が残ってなきゃいけないわけ?そんなお邪魔はしませんよっと!」
霧野は自分は無関係だといわんばかりに、俺の肩をぽんっと叩くと去り際に「がんばれよ」と言って、一足先に更衣室へと消えていった。
(何をがんばれというんだ。アイツは…)
渡すつもりだったオルゴールは結局、クローゼットの奥にしまってきた。
俺は、1人小さくため息をつくと、部誌を書きにミーティングルームへと入っていくのであった。
サッカー棟の戸締りをし、職員室へと鍵を返す。
すっかり日が落ちた冬の空は真っ暗で、今にも雪が降り出しそうなほど冷え込んでいた。
「そういえば、今夜は雪がちらつくようなことを言ってたな」
コートの上着前をしっかりと合わせなおし、校門へと歩き出す。
「あれ?なんで、彼女があんなところに?」
校門の前、1人の女子生徒のシルエットが浮かび上がってくる。
寒空の中、コートにマフラー耳当て、手袋にジャージ下をしっかりと履きこんだその姿には見覚えがあった。
「あっキャプテン!お疲れさまです!」
「あっああ。お疲れ」
目の前まで辿り着けば、やはりそこに立っていたのは、サッカー部一の寒がりの天馬だった。
天馬は顔を寒気に当てられ真っ赤にしながらも、俺を見つけるなり、駆け寄ってきて俺が歩き出せば、せこせこと子犬のように隣について歩き出す。
「あのっ//一緒に帰ってもいいですか?」
「え?あっああ。構わないが…」
「良かったぁ。これだけ待って避けられたらどうしようかと思いました」
「天馬?」
「だって、最近のキャプテン。何だか俺のこと避けてるみたいでしたし、ちょっと不安だったんです。本当に霧野先輩や山菜先輩の言うとおりであってるのかな?って」
「何が…」
俺がそうワケがわからないとばかりに問いかけようとしたときだった。
天馬が俺の前に回りこみ、通せんぼをするように立ちはだかると、抱え込んでいた紙袋の中から、綺麗にラッピングされた袋を取り出し、俺の眼前へと突き出した。
「これっ!キャプ…神童先輩へのクリスマスプレゼントです!うっ受け取ってください!!」
「え?なっ?!おっ俺に??」
驚きに満ちた表情で、恐る恐るそれを受け取れば、天馬は真っ赤な顔のまま「手作りなんで、身に着けてもらえるものじゃないんですが」と遠慮がちに言いながら、中を見るように促す。
俺は催促されるままに、袋のリボンを解き中から手編みのマフラーを引き出した。
それは俺が何度か教室の外で天馬が山菜に手ほどきを受けながら、編んでいたものそのもので---。
「霧野のためじゃなかったのか」
おもわず、ぼそりと思っていた言葉を白い息と吐き出せば、天馬はきょとんとした顔で俺を見上げながら「なんで?」と呟く。
俺はそんな天馬になぜだか苦笑しながら「いや、ちょっとな」とだけ返した後、首に巻いてたマフラーを外し、彼女の手編みのマフラーを掛けなおす。
「ふあっ//そっそこまでしていただかなくても!気持ちだけでも受け取ってもらえたらそれで良かったのに…」
「いや、使わせてくれ。天馬の想いがこもったマフラーだからな。一生大事にするよ。それと…ちょっと家へ来てくれないか?俺からも渡したいものがあるんだ」
「え?なんですか?」
「それはそのときのお楽しみだ。おいで」
そっと手を差し伸べれば、迷わず繋がれる手。
--今なら言えるかもしれない。
この想いを…あのメロディにのせて。
ゆっくりと暗い夜道をしっかりと手を繋ぎ合わせ、歩きだした俺たちの頭上に白い粉雪が舞い落ちていく。
それはまるで、あのオルゴールの中のペガサスと少女のように、ふわりふわりと2人の柔らかな時を包み込むように、静かに舞い降りて---。
きっとこの先も変わらず、あのドームの中の少女とペガサスは、透き通るような音色を奏でながら、彼女へと捧ぐ愛の歌を歌い続けるのだろう。
冷たい箱の中ではなく、天馬というたった1人の観客を前に---。
-end-
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