大人なカレと子供なワタシ(南天♀)

今でも時々、思います。
なんでカレは同級生の先輩方ではなく、俺を選んでくれたのだろうと---。

「どうした?天馬。ぼんやりとして」
「いっいたひれす〜!やめへくらさい!ほっぺが伸びまふ〜」
「じゃあ、俺に見惚れてないでしっかりとマネージャーの仕事するんだな」

最後にピッとわざと強く両の頬を引っ張って、カレ--南沢先輩は俺の真っ赤になった両頬をその意地悪な手で包み込んでくれた。

「もしかして、また俺のファンとかいう女どもに何かいじわるされたのか?」

さっきまでの悪戯っぽい笑みとは打って変わっての真顔で迫られ、俺はおもわず痛みで真っ赤になった頬を今度は微熱で真っ赤に火照らせながら、慌てて首をふるふると左右に振った。

「じゃあ、なんでボーッとしてるんだよ」

コツンと額を軽く小突かれ、俺は小さく悲鳴をあげると額をおさえる。

--いえるわけがない。【なんであなたは俺を選んだんですか?】なんてまた。

言えば、絶対「これで何度目だよ?」と笑って返されそうだ。
ホント、ずるい人だ。
自分ばっかり恋愛を楽しんでいらっしゃる。
いちおう恋人としてあなたの隣に置かせてもらってる立場の俺なんか、毎回あなたに振り向いてもらえなかった先輩方から痛い視線を浴びたり、陰口すら叩かれているというのに---。
俺はおもわず、自然とため息がこぼれるのを隠しきれなかったようだ。
南沢先輩が、再び振り返り俺のとこへ戻ってくるのが見え、俺は慌ててベンチから遠ざかった。

「こらっ!待て!!なんで逃げるんだ!」
「べっ別に逃げてなんかいませんよ!ちょっとタオルを取りに--」
「タオルならさっき他の子が新しいの用意して持っていったとこだぞ」
「じゃっじゃあ、ドリンクの準備を--」
「それならやっぱり別の子がクーラーボックス抱えて行くのを見たな」
「…ふえ〜っんじゃあ」
「捕まえたぞ」

グイッと肩を掴まれ、強引に腕の中へ納められる。
真っ赤な顔を見られたくなくて、俺は黙って俯いた。

「言いたいことあるんなら、はっきり言ったらどうだ?それとも何か?俺にいえない秘め事でもできたのか?」

--まさか、別れたいとか言うんじゃないだろうな?

そうカレが言ったとき、俺ははじめて真っ向から先輩へと振り返り、ずっと黙っていた子供じみた泣き言を吐き出していた。

「そんなっ!俺はいつだってあなただけを見ているのに!そんなこと一分一秒だって考えたことないのに、勝手なこと言わないでください!むしろ、俺はあなたの方が心配です!俺なんかと違ってずっと大人だし、何でも知ってるし…それに--」

最後の一言は涙にくぐもってはっきりとは聞き取れなかったかもしれない。
一番伝えたい言葉だったのに、俺はなんて不器用なんだ。
そう思いながら、鼻を啜っているとその鼻先にあてられた一枚のティッシュ。

「ったく!俺の彼女なんだから、せめて鼻垂らすのだけはやめてくれよな?せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」

乱暴に鼻を拭きながらも、その瞳はとても優しくて、そしてなぜかちょっと困ったようにも見えた。

「それと…むしろ誰よりも眩しい存在をあげるなら、それは俺よりおまえだろうが!いい加減、気づけよな?今も懲りずに俺からおまえの隣、奪おうって奴らがいることをさ」
「…あっ//」

--聞こえてたみたいです。

あの言葉。

【それに、あなたは俺にとっては眩しすぎる人だから】

俺はカレのムッとした表情に今まで見たことのない子供な一面を見せつけられて、おもわず泣き顔が笑顔になっていたようだ。

「その笑顔…それが眩しすぎるんだよ。そして俺はその無垢な笑顔に惚れた」
「みっ南沢先輩//」
「俺がこうして月山国光から戻ってきたのも、おまえのためだ。おまえが戻てきて欲しいって言ってくれたから。俺を好きだったって教えてくれたから…嬉しくて、戻ってきた。恥をしのんでな」

チュッと額にキスを落とされ、俺はおもわずカアーッと体中に熱が集まるのを感じ、慌てておでこを抑えていた。

「だから、もう二度と聞くなよ?俺が誰を一番好きかとかさ」

--ちょっとは大好きだって言った男の本音、信用しろよな?

そっと頭を軽く撫でられ、視線をあげれば、そこには俺しか見られないカレのとっておきの笑顔があって…

「はい!み…篤志さん!」
「なっ//天っおま…」

ニコッと最高に幸せです!って笑顔で示せば、いつになく顔を火照らせ、篤志さんは髪を軽く掻き毟りながら「これだから、俺の彼女は小悪魔なんだよ」と苦笑しながら、練習へと戻っていった。

(小悪魔…かあ。んー、そういうのもいいかもしれないな)

俺はまだまだカレを魅了する小悪魔にこそなりきれないけれど、いつか絶対体だけじゃなく、内面も素敵な女性になってみせますからね!

(だから覚悟しておいてくださいね!篤志さん)

俺の心の誓いが彼の心に届いたのかどうかは知らないが、遠くでカレが小さくくしゃみをする音が聞こえた。
そんなある日の午後でした。

-end-