「ねえ」
「なんだよ」
「なんか話してよ」
「アンタがなんか話せばいいだろ」
「うー…んなこと言われてもさ」
なぜか顔を真っ赤にして、天馬はスカートの裾をもじもじといじりながら、意地らしくも上目づかいで俺を見上げ、小さく呟きかけてきた。
「じゃあさ…その〜雪村って彼女とか今、いるの?」
「はあ?何それ?アンタ、もしかして俺に気でもあんの?」
「んなっ//バッ!調子に乗るなよ!ちょっと仲良くなったからって!おっ俺は」
--ただ…
そう天馬の口が動いたと同時に、俺はそっと彼女のこと抱きしめていた。
「にゃっ//ゆっ雪村?」
「天馬が彼女になってよ」
「ふぇっ//ええ〜っ//そっそんなっ困る!」
「なんだよ。今のどう見ても俺を誘ってるようにしか聞こえなかったのにさ。もしかして、アンタ彼氏いんの?」
--雷門の選手の中に。
そう耳元に囁きかければ、みるみるうちに顔をゆでだこのように真っ赤にして、天馬は首を左右にふるふると振ってみせた。
「いっいないよ!おっ俺のことなんて本気で好きになる奴なんて、いたとしたらよっぽどのバカだよ。俺なんてサッカーのことしか頭にない、じゃじゃ馬だし」
「極度の寒がりで、口よりも手が早くて…でも、俺はそんな天馬に恋をした」
「ゆっ雪村//」
俺の腕から必死に逃げようと抵抗していた彼女の手の動きがふと止まる。
そっと視線をあわせれば、天馬が揺れる瞳で俺を熱っぽい視線で見つめていることに気づいた。
「おっ俺なんかでいいの?」
遠慮がちに問いかける。
「仕方ないだろ?好きになっちまったもんはさ。まっ天馬がOKしてくれても遠距離恋愛になるけど」
「おっ俺はいいよ!だって…こんなにもドキドキしたのはじめてだし、それに…おまえにこうして抱きしめられてるのも嫌じゃ…ないから」
「じゃあ…カップル成立な」
そういって、俺が天馬の顎に手をかければ、天馬は迷わず静かに眼を閉じた。
僅かに震える唇に自らの唇を押し当て、優しくキスを交わす。
「お待たせっ!ライナー乗り場に先に行ったんだけど、見当たらなくて、探しちゃった…よって---」
なんというタイミングの悪さなんですか!吹雪先輩。
唇が触れたかどうかの辺りで、俺はまさかの天馬の張り手を喰らい、ベンチの上に仰向けに倒れた状態で迎えに来た吹雪先輩と、呆れたように彼の斜め後ろで笑う円堂監督を見上げていた。
「ごめんな。雪村。まさかキミたちがそんな仲になっていたなんて知らなくて」
「あっいや!違うんです!俺はそのっ//そっそう!これっ!吹雪さんにお返ししたくて、それでここで待ってたら、彼とですね〜」
「はいはい。言い訳は後でライナー内でたーっぷりと聞くとして、急ぐぞ!最終便が後2分で出ちまうからな!乗り場まで全員ダッシュだ!」
天馬のテンパった言い訳を適当に聞き流し、吹雪先輩と笑いながら、乗り場へと駆け出した円堂監督。
俺も天馬の手を引いて、乗り遅れたら敵わないと一緒に駆け出す。
「そうだ!天馬」
「何?」
「ライナーの中でいいから、さっきのつづ…」
「するかっ!」
俺の言葉を最後まで待たずに、天馬はあっさりとキスの続きを全力で拒絶した後、俺の手をギュッと強く握りながら、「でも」と続ける。
「メアド交換とかならしてやってもいいよ。次、いつ会えるか分からないしさ」
「…会えるよ」
「え?」
「俺が会いに行ってやる!だから、その時は誰にも邪魔されないとこでキスしような」
「んにゃっ//バカッ」
小さな声で悪態をついた後、天馬は俺にだけに聞こえる声でこう続けてくれた。
「まっ雪村にならいいけど」
「やっぱり天馬は可愛いよ」
「…バッバカァッ!!」
--本当ははじめてキミを敵サイドのベンチで見かけたときから、恋に落ちていたのかもしれない。
でも、触れられる距離にある関係じゃないことを知っていたから、自ら芽生えた感情を凍らせていたのかもね。
誰にも気づかれないように…
悟られないように…
短い時間を通り過ぎれば、それで終わる
そう思っていたのに…
氷上の妖精は不意に俺の前に舞い降りた
実際に話してみれば、イメージとは違って、とんだじゃじゃ馬な子だったけどさ。
でも…
「俺にはこれくらい生意気な彼女の方が、持て余さなくていいのかもな」
「誰が生意気だってぇ?」
「ホント、すっかり仲良くなっちゃって」
「こうなると、アイツらも黙っちゃいないだろうなあ」
帰りのライナーの中で、こうして痴話げんかを繰り広げつつも、俺たちがお互いの連絡先をしっかりと交換し合ったのはいうまでもないことだ。
--また会う日まで。
その時は、キミの声と毎日届けられるメールで、この凍てついた心を溶かし続けることにするよ。
-end-
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