寂しくないなんて本当は嘘(円天♀←拓)
「守さんのバカ…」
急だった。
いきなり、彼が雷門の監督を辞めるといって、サッカー部を去ったのは---。
「俺にくらい一言いっていってくれても良かったのに…」
これでもいちおうは監督と一マネージャー以上の関係だと自負している。
まあ、俺もまだ全然子供だし、恋人って自称するにもおこがましいとは思ってはいるけど、でも…。
--せめて、大事なことくらい、みんなと一緒にじゃなくて【俺だけ】に先に伝えて置いて欲しかったのにな。
鬼道監督の下、新しい体制ではじまったサッカー部の練習は守さんの頃に比べると、なんか違った。
一言でいうならば、今まで飴ばかり与えられてたとこへ、鞭ばかり与えられてるような厳しさだけが目についてしまって、なんだかキャプテンたちが辛そうにさえ見えた。
監督が代わっての初日の練習が終わり、みんないつも以上に限界を感じてるようだった。
「お疲れさまです」
「ああ。天馬…その、今日一緒に帰らないか?」
「え?あっはあ…構いませんが」
片づけを終え、サッカー棟へと戻ると一足先に着替えを済ませたキャプテンと鉢合わせする。
キャプテンはサッカー部員の中で唯一、俺と守さんの秘密の中を知っている人。
たぶん、急に【一緒に帰ろう】と言い出したのも、そのことで俺を気遣ってのことだろうと思った。
--あーあ。守さんにもキャプテンの優しさの一部でも身につけてほしいくらいだよ。
ギュッとあれ以来、一度も鳴らない携帯を握り締めて、俺は目の前のロッカーの扉を力任せに閉じた。
※ ※ ※
「寂しくないか?」
「え?…あ…えと、平気です。むしろ、俺はキャプテンたちが心配です。監督が代わって、体制も変わって、これから本格的な革命を起こすぞってときにあの人はふいっといなくなって…不安じゃないですか?」
帰り道、俺はキャプテンと人気のない公園でベンチに並んで腰掛けながら、静かに言葉を交わす。
「まあ、不安じゃないといったら嘘だろう。だが、それでも剣城みたいにいなくなった人をいつまでも追いかけてもな…って思うとさ」
「俺も…そう思います。だから、気にしないんです!」
また無意識のうちに携帯を取り出していた。
グッとその冷たい無機質な塊を握り締めたって、あの人からの着信はないこと分かってるのに、なんかしら連絡くれないかな?なんて淡い期待さえ抱いて、片時も手放せない自分がそこにはいた。
「嘘ばっかりだな。おまえは」
そっと俺の携帯を握り締める手に自身の手を乗せて、キャプテンは寂しげな笑みを浮かべてみせた。
「あの人の声…本当は毎日でも聞きたいくせに。昨日のあの瞬間から、おまえは一度も辛いとか悲しいとか、そういう感情まるっきし見せずにいた。それを見るたびになぜだか俺の方が胸が痛んでさ。泣きたくなるよ」
--おまえの代わりに。
そういって、キャプテンはグッと俺の腕を自身の腕の中へと引き寄せ、そっと俺を抱きしめてきた。
「あの人が帰ってくるまでの間だけでいい。もし、おまえが寂しいと思うのなら、俺を頼ってくれ。いつでも支えになるから」
「…キャプテン」
じわっと目頭が熱くなるのを感じた。
ずっと堪えてきた想いが溢れ出すのを感じた瞬間、俺はぼろぼろと頬を熱い雫が伝い落ちるのを抑え切れなかった。
「うっひくっ…わあああっ!」
--寂しくないなんて本当は嘘。
だって俺はまだ全然子供だから…
大好きな人がいない世界なんて、本当は1日たりとも耐えられない。
だから…お願い、早く帰ってきてよ。
俺が他の人に心魅かれて、あなたの前から消えちゃう前に…
-end-
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