伝わる温もり キミと歩き出す新しい道〜京拓♀

※蘭←拓♀のち、京拓♀な展開。蘭丸は天馬♀とお付き合いはじめたとこ。京介は拓人♀が好きという前提。

--今までは霧野が傍にいた。

当たり前のように…

それがずっと当たり前だと思っていた

これからもずっと一緒にいるものだと思っていた

でも、それは俺の勝手な思い込みで…

「あっ!天馬っ!帰るんなら、俺送ってくよ」

「えっ?あっでも…」

部活の練習がいつもより長引き、ふと空を見上げれば日は落ち、女の子が1人で帰るには不安なほど辺りは暗闇に閉ざされていた。

天馬は霧野に呼び止められたとき、おもわず俺へと視線を向けていた。

当然、その視線に霧野も気づき俺を見る。

「ああ、もちろん神童も」

「いや、俺はいい。天馬の方のが家遠いんだし、送ってってやれ」

霧野がごく当たり前のように”神童も”と言ったとき、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ。

天馬は霧野の彼女で、俺は相変わらずアイツにとってはただの幼なじみなんだという、感覚が少しだけ辛かった。

--いい加減、俺離れしてくれた方がどれだけ気が楽になれるか。

フッとそんな思いが脳裏に過ぎった。

--恋人になれないのなら、いっそその方がいい。アイツが他の子と友達以上に親しくなっていくのを間近で見続けるくらいなら…

おもわず、涙腺が緩むのを感じ、俺は2人から背を向けていた。

「神童?」

「そんなに神童が心配なら、俺が送ってってやるよ。それなら文句ないだろ?」

不意に腕を掴まれ、俺はハッとなって顔を上げる。

腕を掴んでいたのは剣城だった。

ぶっきらぼうに「ほら、さっさと帰るぞ」と強引に俺の腕を引くと、有無を言わさず剣城は呆然と立ち尽くす霧野と、なぜか小さく隠れるようにして笑っている天馬を一睨みするとそのままサッカー棟を離れていた。

「ちょっ!待て!」

「なんだよ?今にも泣きそうな顔してたくせに。それとも、霧野に見られたかったのか?そうしたら、アイツが松風よりもおまえを優先すると思ったか?」

「違うっ!戸締りしないといけないだろ。俺たちが先に帰ったら、霧野たちが困る」

外でもめていると、すぐに霧野と天馬が飛び出してきた。

「おい、本当に剣城でいいのか?なんかもめてるみたいだけど」

「心配するな。おまえは天馬を送ってくんだろ?さっさと帰れ。俺は戸締りしてから帰らなきゃいけないことをこいつに話してただけだから」

「そっか。分かった。じゃあ、剣城。悪いけど神童のことよろしくな。行こう、天馬」

「あっはい!それじゃあ、キャプテン。剣城さよなら」

霧野に手を引かれ、歩き出した天馬がちらりと剣城を振り返り、口の形だけで何か彼へと伝えたように見えた。

剣城にはその言葉の意味が分かったのか、一言小声で「バァカ」と言い返したのが、鍵を閉める俺の耳元にもはっきりと聞こえた。

※ ※ ※

「おまえと天馬は本当に仲がよくなったな。最初の頃と比べるとかなり意思の疎通がとれるようになったじゃないか」

「アイツが懐っこすぎんだよ。俺は別にアイツのことどうも思っちゃいねえよ。でも…」

結局、剣城に半ば強引に送ってもらうことになった俺は、黙って剣城と並んで歩いていく。

静まり返った夜の道に2人分の足音が静かに響き渡っていく。

「おまえは霧野のこと、諦めきれなさそうだけどな」

さりげなく呟かれた言葉に俺はまた顔を赤らめ、涙目になっていた。

グッと鞄を握り締め、俯きながら涙が溢れないように堪える。

「松風なんかより、おまえの方がずっと美人で頭もよくて、完璧だってのになんで、アイツはおまえじゃなくアイツ選んだんだろうな」

--俺だったら絶対おまえなんだけど…

フッと夜風に乗せて呟かれた剣城の言葉に、俺はびっくりして剣城を見上げていた。

月明かりに照らされて、剣城の白い頬に気持ち赤みがさしたのが目に見えて分かった。

とたんに俺自身も恥ずかしさからか頬に熱が集まるのを感じていた。

「俺なんか…天馬に比べたら、全然ダメだ。ずっと霧野の優しさに甘えてただけだった。自分の気持ち、伝えなくても霧野は分かってくれてるとばかり思ってた。だけどっだけど…」

ぽろぽろと涙が溢れ出てきてとまらない。

俺はその場に立ち止まり、手の甲で溢れ出す涙を何度も拭った。

「神童…」

「好きって…言えなかった。天馬みたいに真っ直ぐとアイツの目を見て言えなかった。アイツを異性として好きだと気づいたときには、もうアイツの目には俺じゃなく、天馬しかいなかったから…知ってたから」

「だったら、好きなだけ泣け!悔しかったなら、もう抑えなくていいからおもいっきり泣けよ!それで、アイツのこと吹っ切れるんならさ!俺が付き合ってやっから!おまえの涙拭う奴になってやっから!慰めてやっから…だから、神童…」

ぐいっと剣城の腕が俺の体を引き寄せる感覚と、優しい温もりに俺は自然と声をあげて剣城にしがみついて泣いていた。

「その涙が枯れ果てたらさ…ちょっとは俺のことも意識してくれよな?おまえには霧野だけじゃねえってこと教えてやっから」

「剣城…ああ、そうだな。考えとくよ」

キュッと彼の背に自身の両手を回し、俺ははじめて霧野以外の男に縋って泣いた。

そっと労わるように頭を撫でられたとき、俺は幼き日の霧野と自分の姿を遠くに見ていた。

--霧野…大好きだったよ。

幼き日の霧野が俺に手を振って走り去っていく。

【もう、俺は必要ないよな?拓人!】

--ああ。そうだな…だって、俺には俺をちゃんと見てくれる人ができたから。

そっと濡れた視線をあげれば、剣城と視線が絡み合って、自然と近づく2つのシルエット。

--これからは、この人にこの溢れ出る涙も、感情も全て受け止めてもらおう。

彼ならそれができるから…

俺の恋人として---。

-end-


あとがき--

いきなり京拓♀ってのもなあ…ってんで、蘭拓♀で失恋のち京拓♀で…

本当は京←拓♀だったんだが、今回は逆サイドで締めてみた。

だから、あっさりと転んだんだよ!

なんやかんや言いながら、ようやく京拓♀書けたな…

2011/10/9