猫にされちゃいました?

※猫の日にちなんだ話。霧野捏造姉が登場します。

「うぎゃあああっ!!」
ある日の放課後。
ミーティングルームに響き渡るじゃじゃ馬女の絶叫。
「うわっ!どうしちゃったの?!!!」
続いて、その騒ぎを聞きつけて、真っ先に駆けつけたと思われる天馬の動揺する声。
俺と神童は、ならともかく、天馬までもが慌てていることに黙って見過ごすわけにもいかず、更衣室へ向かっていた足を止め、すぐさま踵を返しミーティングルームへと飛び込んでいくのであった。
そして、俺たちはとんでもない光景を目の当たりにするのだった。

※ ※ ※

「…喰ったのか」
「「ふぇ?」」
自動ドアが開くと同時に目の前に飛び込んできたのは、髪色と同色の猫耳と尻尾を生やした見事なまでの猫娘。もといと、ショックで硬直する天馬だった。
俺はのその姿を見ると同時に、彼女の背後にあるテーブルの上に散らばっているクッキーの食べかすへと目を向け、おもわずその言葉を放っていた。
「だからっ!おまえはその俺が捨てようとしていたクッキー食っちまったのか?って聞いてるんだよ!このバカ女!!」
「んにゃっ?!だっ誰がバカ女だぁっ!!いくら先輩でもその言い草はないんじゃないですか!!たったしかに蘭丸先輩のクッキーと知らずに勝手に食べちゃったあたしも悪…え?蘭丸先輩のクッキー?」
カアッ!と猫のように全身の毛を逆立てて、癇癪を起こした後、は俺の言った言葉に「あれ?」と首を傾げ、そしてさわさわと自身の猫耳と尻尾へと手を触れ、再びクッキーへと目を向ける。
(さすがに気づかれたか…来るぞ。の逆切れ)
俺が来るなら来いと覚悟を決めて、の次の言葉を待っていると、なぜか聞こえてきたのは、怒声ではなく泣き声だった。
「ふえ〜ん!良かったぁ〜!!持ち主が分かって〜」
「え??」
いきなり、泣きつかれ、俺はビクッとなって胸に当たるマシュマロのような感触に反射的に頬を染め、行き場のない手にはじめてパニクっていた。
まさかあの強情女がこんなか弱い姿を見せるとは思ってもなかったわけだ。
当然だろう。
はしばらくの間、俺にすがりついて離れてはくれなかった。
困り果てた俺に見かねて、天馬が慌てて駆け寄り、を自分の側へ引き寄せるまで、俺の心拍数は通常域を随時超えたまま、冗談抜きで心臓が止まるかと思うほど高鳴っていたのだった。
* * * *
「落ち着いたか?」
「はひ…」
ぐしゅぐしゅと鼻を鳴らし、は猫耳と尻尾をしゅんと下げて、天馬から差し出されたティッシュを受け取り、豪快に鼻を噛んでみせる。
神童が気を利かせて、例のクッキーを誰の手に触れないようにと焼却炉に直接投げ入れてきてくれた後、ジュースを俺たちに奢ってくれた。
はその1本を神童から受け取ると、小さな声でお礼を言って遠慮がちにプルタブを開け、震える唇で一口飲んだ。
小さく息を吐き、天馬に背中を撫でさすってもらっているうちに、呼吸もだいぶ落ち着いてきたようだ。
目は相変わらず真っ赤でいつになくしおらしく、俺も普段みたいな悪口の応酬もできないままに、ただ静かに目の前の彼女を同情と自身の軽率な行動から起こしたトラブルへの反省もこめて、申し訳なさげに見つめている。
「悪かったな。あんな危険なもの目につくところにほっぽいといてさ」
「いえ。あたしも人のものだって分かっていながら、後で「摘んじゃいました」って言っちゃえばいいかな?なんて、意地汚い真似しちゃって…自業自得とののしられても仕方ないことだと思ってます」
「言わないよ。そんなこと」
普段だったら、それこそ「バカ女のしそうなことだな」ってあざ笑えるのだが、あそこまでショックで凹んでいるコイツをからかえるわけがない。
俺はそもそもの発端の元となったこのクッキーを俺の鞄へ忍ばせた実の姉に連絡をとるべく、携帯を手にとった。
「ちょっと姉さんに電話してくる。まあ、100%悪戯のつもりでやらかしたことだってのは間違いないから、そのうち元には戻れるんだろうけど、どれくらいで効果が切れるか知っておきたいだろ?」
そういって、俺は席を立つと姉へと電話をかけに廊下へとでるのだった。
ついでにその姉におもいっきり文句を言ってやることも忘れずに---。

※ ※ ※

「喰った量にもよるらしいけど、仮に全部喰ったと過程しても明日の朝までには効果は完全に切れるらしい」
「良かったね。
「うにゅ…天馬〜」
「コレに懲りてもう勝手につまみ食いとかしないことだな」
「はい…ごめんなさい」
「で?一体いくつ喰ったんだ?つまみ食い程度って聞いてるが」
「それがぁ〜怒らないで聞いてくれます?」
「…ああ。まあ、今回は俺の不祥事もあるし…な」
ぴょこんと下げていた猫耳と尻尾を立て、はいつもの威勢を取り戻したのか、俺がいつもより優しいことに調子づき、さらりととんでもないことを言う。
「実は…2袋あったうちの1つを全部…」
「「「はあああっ?!」」」
俺と天馬、神童の呆れた声がミーティングルーム内に響き渡る。
「…ということは俺が捨ててきたのは2袋のうちの未開封だった1袋だったと?」
「はい…いっぱいあったから、つい」
〜…俺、弟として恥ずかしいよ」
「……つまみ食いが聞いて呆れるな」「だって…おにゃか空いてたしぃ〜」
甘えるような猫なで声で上目遣いに俺に哀願するような目で訴える
普段だったらまず見られない光景に、俺だけでなく神童もちょっと動揺して、頬を染め上げ慌てて視線を逸らす。
「まっまあ、明日には元に戻るということだし、も反省してる。それに、被害が彼女だけで済んで良かったじゃないか。な?霧野。許してやらないか?」
「あっああ。そうだな…でも、今回だけだからな。今回のことに懲りて、もう二度とその辺においてあるものを勝手に摘むなよ」
「はぁい!気をつけます!!」
ピンと尻尾を真っ直ぐに立て、は勢いよく立ち上がると、「じゃあ、問題も解決したし帰ろうか」と天馬へと振り返り、少し屈んで鞄を手に持つ。
同時に、いつもなら見えない角度から尻尾が生えているせいで、気持ち捲れ上がっていたスカートの隙間から覗いたのは可愛らしい柄の下着。
「「なぁっ/////」」
「「ふぇ?」」
おもわず俺と神童はそれをガン見してしまい、振り返った双子と目が合った瞬間に気まずさに慌てて視線を逸らす。
神童に至っては刺激が強すぎたのか、今にも卒倒しそうな勢いで近くの椅子にもたれかかるように座り込んでしまったくらいだ。
「どうしました?キャプテン」
「あっいや…今日はいろいろあったからな。疲れたみたいだ」
「あたしのせいで、拓人先輩にまでご心配をおかけしてすみませんでした」
ペコリとが頭を下げると同時に、今度は天馬の視線にあの光景が丸写しになったようだ。
「うわっ!!気をつけないと!パンツ丸見えだよ!」
「へっ?うわあっ!やだっ////恥ずかしい!!もっもしかして、さっきも見えました?」
「「あっいやっ!さっきはセーフだったから!」」
「そうですか。それじゃあ、拓人先輩、蘭丸先輩。お先失礼します。いこっ!天馬」
「あっうん!それじゃあ、お先失礼します」
「「ああ。おつかれ」」
内心、本当は丸見えだったんだけどな。と思いつつも、いつになくしおらしいを元に戻すのも惜しかったので、とっさに2人揃ってウソをついていた。
「あ…!耳と尻尾隠していったほうが」
「大丈夫だよ!もう外真っ暗だもん。分からないって」
シュッと軽い音を立て、2人分の足音が次第に遠ざかっていくのを聞きながら、俺と神童もまた帰り支度をするために更衣室へと向かい歩き出す。
「…いっそ、ずっとあのままの方がいいと思ったんだけどさ」
「ああ。俺もおもわず思った。姿が変わると人格も変わるのか?」
「さあ…でも、猫化の副作用かもしれないな。あれ」
「だろうな」
互いに思うことはただ1つ。

--も、あれでいて可愛いとこあるんだな。と…
普段強気なじゃじゃ馬女が見せた、弱さに俺たちは「やっぱり松風双子は最強の天使」だとおもわざるを得ないのであった。

-end-

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