花より双子


頭が重い。体がだるい。
ピピピッと体温計が鳴る音がして、脇の下から取り出せば予想通り。
「38度ちょいか…あーなんでこのタイミングで熱だすかな。俺」
せっかくの日曜日。
今日は天馬に頼まれて買い物に付き合う予定だったのだが、これでは当然行けそうにない。
仕方なしに携帯をベッドから這い出して、手に取ると軽く咳き込みながら、短文のメールを天馬へと送った。
それから後は残念ながら、記憶がない。
俺はそのまま、熱に浮かされ意識を失ってしまったのだから---。

※ ※ ※

---パタパタパタ。
誰かが部屋の外を走り回ってるらしい音が聞こえる。
(あれ?母さん。仕事から帰ってきたのかな?)
ふと目の前の時計を見やれば、時間はお昼過ぎ。
こんなに早い時間に帰ってくることなんてまずないのだが…。
もしかしたら、俺が具合悪いの知ってたし、心配して仕事早めに切り上げてきてくれたのかな?
もう、子供じゃないんだし1人でおとなしく寝てるってのに…。
あまりに階下が騒々しく、俺はおもわず布団を頭から引っ被る。
と、同時に何かがガシャンと大きな音を立てて落ちた音がして、甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。
(え?もしかして、母さんじゃなくて姉さん?また唐突に帰ってきたとか?)
母さんにしては騒々しすぎるのと、派手に物を落とす不注意さから考えて、俺は第二の可能性、今は大学の寮で暮らしている姉の予告なしの帰省の可能性へと辿り着く。
(まさか、また変なものでも作ってるんじゃないだろうな)
ちょっと不安になり、俺は今朝よりは楽になった体を無理矢理動かし、よろよろと扉へと向かっていった。
「…うぶ?火傷とかしなかった?」
「うん。平気。でも…ごめん。ダメにしちゃった」
「いいよ。また作り直せばいいし…それより、早く片付けちゃおう。先輩に気づかれたらまずいし」
「そだね!」
扉越しに階下でのやりとりが聞こえてくる。
よく似た声が2人分。
俺はその声に物凄く聞き覚えがあった。
(…アイツら、勝手に家に上がりこんで何やってるんだ?)
そっと気づかれないように扉を開け、スリッパの音さえ立てないように慎重に階段を下りていく。
そして、物音のしていたキッチンへと顔を覗かせ、俺はおもわず「やっぱりな」と心の中で呟くのであった。
「うん。今度はいい感じだよ」
「味も平気?」
「うん。秋姉の作ってくれるおじやそのものだよ」
「良かったぁ〜」
「後はさっきみたいに落とさないように運ばないとね」
「うっうん」
「焦らなくていいからね。ゆっくり、ゆっくりだよ」
「わっ分かってるってば!」
「よぉし、もう大丈夫だ。後は霧野先輩に気づかれないように部屋まで持っていけば…って!」
と天馬の双子が作ったおじやをが慎重にお盆へ乗せ、天馬がそれを持って俺の部屋目指して一歩キッチンを踏み出すと同時に、外でその様子を伺っていた俺と鉢合わせる。
「うわあっ!」
「ととっ!」
危うく天馬がお盆を取り落としそうになったところを慌てて、俺が下からしっかりと支え二度目の惨劇をなんとか未然に防ぐ。
「危ねえだろ!熱い物を持ってるときは慎重に行動しろ。そうしないとさっきみたいに、危うく火傷するところだったぞ」
「ふぇ?もっもしかして、霧野先輩…」
「知ってたんですか?」
「あれだけ階下でドタバタやられてりゃ気になって目も覚めるっての」
「「…ごめんなさい」」
お盆を天馬からそのまま引き取り、キッチンへと戻る俺に双子が揃ってシュンとなって頭を下げる。
天馬が落ち込むのは分かるが、一緒にいたも同じように凹むとは意外だった。
俺は2人が俺のために作ってくれたおじやをテーブルの上に戻すと、早速土鍋の蓋を開け、蓮華で茶碗に取り分けた。
「喰ってもいいんだろ?」
「「え?あっはい。どうぞ」」
俺の言葉に2人が同時に答えれば、俺はおもわず苦笑してしまう。
「それじゃあ、いただきます」
一息、二息かけてアツアツのおじやを一口含み租借する。
朝から何も食べていなかったこともあり、いつもよりずっとそれはおいしく感じられた。
「うん。うまいよ。ちょうどいい柔らかさだし、食べやすい。不器用なが率先して作ったにしては上出来だな」
「わわっ//ありがとうございます」
俺の嫌味な言葉にさえも、今日は素直に頬を染めて喜び、はエプロンの裾をギュッと握り締めていた手をパッと離すと、隣で同じように緊張した面持ちで様子を伺っていた天馬へと抱きつき「蘭丸先輩が褒めてくれたぁ」と小声で天馬へと囁き、一緒になってはしゃいでいるようだ。
「良かったね。
「天馬のおかげだよぉ」
「これって、2人で作ってくれたのか?」
「「はい!」」
「とはいっても、俺は手伝っただけですけどね。が1人でやりたいってがんばるから」
「でも、天馬が火加減とか注意してみてくれてなかったら、こんなに綺麗には作れなかったです。だから、これはあたしと天馬2人のおじやです」
「そっか。天馬もありがとな。おいしかったよ」
天馬をちょいちょいと手招きして呼び寄せ、傍に来たところをいきなり頭を撫でてやれば、天馬は顔を真っ赤にして嬉しそうに目を細め可愛く照れる。
その様子に気持ちが自分もかまってもらいたげな目で、こちらを見ているような気がしたので、「おまえも頭撫でてやろうか?」と冗談交じりに言えば、やっぱりなと言いたくなるような「けっこうです」が返って来る。
「あたしは天馬みたいに子供じゃありません!」
「じゃあ、ほっぺにキスとかのご褒美にしてやろうか?」
「んにゃっ///そっそれは…そのっいっいいです。遠慮しときます」
あからさまに顔を真っ赤にして、そっぽを向いてツンデレ全開のに俺はおもわず苦笑してしまう。
「なっ何がおかしいんですかぁっ!!」
「いや、別になにも?」
「もぉっってば!今日は霧野先輩、病気なんだから一緒に看病しようねって言っておきながら、これじゃあいつもとおんなじじゃないかぁ」
「にゅう〜でもぉ!!」
俺に対して、いつもの調子で反発し始めた双子の姉に、天馬がとうとう痺れを切らし、姉弟喧嘩をはじめる。
天馬に叱られ、さすがのも覇気を失くし、すぐにシュンとなって小さくなった。
俺はそんな2人を見て、まだちゃんと礼を述べてなかったことを思い出し、そっと2人の間に立つと、何気なしに2人を抱き寄せ感謝の気持ちをその耳元に囁いた。
「…2人とも、ありがとな」
「「ふぇ///」」
「とくに天馬、ごめんな。今日の約束、守ってやれなくてさ」
「いえ、かまいません。むしろ、俺っこうして霧野先輩のお世話ができてよかったくらいです!ね?
「えっ?いやっあたしは…そのっでも…蘭丸先輩には早くよくなって欲しかったので…」
「ああ。大丈夫だ。おまえたちの作ってくれたおじや食べたおかげでもうだいぶ体力ついたよ。明日には完全復活して学校へ行けそうだ」
「「本当ですか?」」
「ああ。部活にも出るよ。もう心配いらないからな」
「「はい!」」
そっと双子の頭を最後に一撫でずつしてやると、2人とも互いの目を見交わして嬉しそうに頬を染めて笑いあってくれた。
その姿を見たとき、俺もまた今朝の憂鬱が一気に吹っ飛ぶのであった。

--たまにはこういうのもいいのかもな。
って思えるくらいにさ。

-end-

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