僕のカノジョにはヒミツがある

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  8.キミを思う 振り返る思い出  

「ハアハアハア…手加減するっていっときながら、2人ともひどいですよ」
「はあ〜ひっさびさに限界まで動いたぁ。やっぱ俺も年かなあ。もう動けねえや」
「霧野はそれでも去年まで現役だったじゃないか。俺なんて、高校卒業してから拓葉の相手をする以外はボールなんて蹴る機会なかったからな。さすがにへとへとだ。でも…」
すっかりと日が落ち、河川敷に座り込む大人2人と、もう振り回されまくって立つこともままならない俺が、冷たく冷えた地面に大の字に倒れる姿がパチパチと点きはじめた外灯に照らされていく。
神童さんは、拓葉先輩がスポーツバッグから取り出してきたタオルで顔の汗を拭いながら、それでも満足げに俺を見つめ柔和な笑みを浮かべて呟いた。
「こんなに楽しんだのは20年ぶりだった。それにアイツの技も体感できるなんてな。もう…二度と見ることも技をかけられることもないと思っていたのに…」
ツゥーッと神童さんの頬から一滴の涙が伝い落ちる。
「おまえが人前で泣くのも10年ぶりだけどな」
「もう涙は見せないってあの日、アイツと最期の別れをするときに誓ったんだけどな。どうにも、この涙もろさはなかなか治せそうにない」
そっと溢れ出る涙をタオルで拭いながら、神童さんは夜空を見上げる。
「あの…それで天馬さんのことなんですけど、あの人ってなんで【雷門中の幻の選手】なんて呼ばれてるんですか?それに、あの人女性ですよね?霧野監督の奥さんで…なのになんで少年」
俺はふと、放課後の練習後に1年生たちから聞いた天馬さんに関する話を思い出し、どうしても気になって2人へと問いただしていた。
俺の言葉に、2人はおもわず互いの顔を見合わせ、そして思い出し笑いでもしてるかのように声を上げて同時に笑い出した。
「あーあーあれな。なんか、いつのまにかアイツが円堂監督じゃないけど、伝説扱いされてたっていう噂話な。あれには俺もここへ来てから聞いたんだけどさ、さすがに笑ったよ。いつからだっけ?そんな話が雷門中卒業生から流れ出したのってさ」
「ああ。たしか天馬が稲妻町を去った後からくらいだったから、もう20年は前の話だな。未だに語り継がれてる辺りは凄いが…」
「だよなあ。まあ、女が男と偽ってホーリーロードをはじめとする公式試合で活躍しまくってた事実が、後々で公になってきて問題になると困るからって、当時の理事長が、慌てて天馬が在籍していた3年分のサッカー部の歴史を全部闇に葬っちまったのが原因らしいんだけどな」
「だから、結局その当時を知る者たちの口頭で広められた彼女の活躍だけが一人歩きしだし、今の今でも残ってるってわけだ。当時、アイツと一緒にサッカーやってた俺たちも、天馬自身の希望もあって、天馬が稲妻町を去ってからは尚のこと彼女の中学時代の秘密は語らないようにした」
「いつしか、【松風天馬】は本当の意味での幻の選手となっちまって、アイツが今の中学サッカー界では当たり前となっている自由なサッカーを取り戻した主導者だって真実は、当時を知る俺たち以外は知ることのない歴史になったんだよ」
最後の言葉を語るときには2人とも最初のような明るい笑い声すらなく、暗く沈んだ様子で静かに話し終えた。
そして話は自然と2人が天馬さんと出会った頃の思い出話へと変わっていく。
俺は黙って2人の話しに、いつのまにか俺の隣に座り込んで、ぼんやりと空を見上げていた拓葉先輩と一緒になって聞き入っていた。
「アイツ…本当にサッカーバカでさ。雷門中でサッカーやりたいって一心で、自身を偽って男子サッカー部しかなかった雷門中へ男として入学してきたんだ」
「その当時、今のおまえたちには想像もつかないことだろうが、俺たちのサッカーはとある組織によって管理されていた。つまり、自由なサッカーをさせてもらえなかったんだ」
「そんな中、革命という名の風を起こしたのが、【松風天馬】だったんだ。最初はさ、俺も神童も全くアイツの言葉なんて受け入れる気すらなかった。世の中には俺たちガキがどんなに足掻いたってどうにもできないことなんていっぱいあって…。その中の1つにフィフスセクターの脅威があった」
「でも、天馬は”大好きなサッカーを守りたい”そして俺たちとみんなで”楽しい自由なサッカーをしたい”そんな一途な思いから、俺たちを…周りのサッカーを心から愛する者たちの心を変えていったんだ。”革命という名の風を起こせ”と…”立ち塞がる脅威と戦え”とな」
「そして、俺たちは変えたんだ。変えられたんだよ!本当、今でもよくもまあ、やったもんだなって思うよ。天馬に引っ張られて、自由にサッカーしたくて、ただそれだけの単純な思いで一心にボール追っかけて、全力疾走してぶつかりあって…。楽しかったよな」
「ああ。あんなに充実した2年間はなかった。高校に入学して、その1年後…アイツも雷門高へ来たが、もうアイツは自分のすることはしたと言わんばかりに、満足げな顔で選手としての自分を捨てて、女として俺たちの前へと現れた。そして--」
フッと神童さんが俺の隣でうとうととしだした拓葉先輩を見つめ、ちょっとだけ悲しげな顔を見せ、黙り込む。
霧野監督もなんだかそこから先は振り返りたくないのか、急に顔を曇らせ気まずそうに空を見上げた。
「さてと!だいぶ疲れもとれたし、そろそろ帰ろうか。拓葉もなんか退屈すぎて今にも眠っちまいそうだしさ」
「ああ、そうだな。ほらっ拓葉。帰るぞ。あまり遅くなると母さんが心配するからな」
「ふに?んー…お話終わったのぉ?」
神童さんに肩を揺すられ、今にも完全に閉じそうになっていた瞼をもたもたと持ち上げながら、拓葉先輩は焦点の合わない目で父親の顔を見つめている。
も悪かったな。ちょっとのつもりがこんな時間までつき合わせちまって。あっ!おまえ、飯大丈夫か?たしか食堂って時間決まってたよな?」
「あっええ。この時間だともう、おばちゃんたち片付け終わって帰ってる頃ですね。でも、いいですよ。コンビニ弁当でも買って部屋で食べますから」
「だったらさ、寮へ帰る前にウチ寄ってけよ。俺たちの我侭に付き合ってくれた礼だ。飯奢ってやる」
先に河川敷を上っていく神童親子の後を歩きながら、霧野監督がスッと上着のポケットから携帯を取り出すと、俺の返事を聞くよりも早くに自宅へと電話をかける。
「ああ、蘭花か…ん、今から帰るよ。それでさ、飯余分に残ってるか?…え?いや、がさ、俺のせいで学食閉まっちまったからさ。…ああ、俺の分はあり合わせでいいから、頼んだぞ」
パチンと携帯を閉じ、霧野監督が振り返る。
「蘭花の飯はマジで上手いから、期待していいぞ!」
バシンッと勢いよく俺の背を叩き、「なんかやけに張り切ってる感じだったしなあ。まっおまえならいいか」などと、独り言を吐き捨てさっさと先を歩いていく。
「ほらっ!早くしろっての!置いてくぞ〜」
「あのっちょっと待ってくださいよぉ〜。俺、そんなにタフじゃないんですから」
「おいおい。なっさけねえなあ。おまえ、それでもサッカー選手かよ!スタミナなさすぎだぞ」
俺より20近く上だってのに、本当回復早すぎないか?
そう思いながら、俺は楽しそうに笑う霧野監督の後を追って、再び走り出すのであった。
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