僕のカノジョにはヒミツがある
7.雷門中・幻の選手
ミーティングルームを後にし、俺はひとまずグラウンドへと戻っていく。
練習はもう終わり。と監督も言ってはいたが、まだ後片付けがある。
俺は2年とはいえ、今日入ったばかりの新入部員でもあるし、まだ京馬やすでに顔見知りの同級生以外の先輩や後輩とはろくに話しすらできていない。
とりあえず後輩たちの手伝いでもしながら、少し交流深めておこうかな?
なんて思いながら、グラウンドへ降り立つと、霧野監督の傍に見知らぬ男性が1人立っているのが見えた。
傍に拓葉先輩と霧野がいるところを見ると、彼女らの知り合いでもあるのだろうか?
俺はグラウンドの整備をしていた1年生たちの手伝いに駆け寄りながら、さりげなく霧野監督の隣に立つ男性のことを聞いてみる。
「なあ、霧野監督と今話してる人って誰?学校関係者の人?」
「ああ。あの人は神童先輩のお父さんだそうですよ。さっき話してるのちょこっと聞きましたから」
「へえ、拓葉先輩の…」
言われてみれば、彼の緩やかな曲線を描く豊かなウエーブした髪に、拓葉先輩と同じ灰色がかった綺麗な茶の髪色といいそっくりだと思った。
「あのっ!」
「ん?」
「さっきの凄かったです!俺、びっくりしました!えと…”そよかぜステップ”ですか?舞うようにターンして華麗にドリブルして抜けるのとか」
「あっああ。アレな。でも、アレってさ。まだ未完成なんだよな」
--と、霧野監督が言ってたんだけど。
不意に1年の1人が、目をキラキラさせて俺を尊敬の眼差しで見上げ、先ほどの入部テストの話を持ちかければ、他の奴らも作業の手を止めて、わやわやと俺を囲み始める。
「ええっ?!あれってまだ未完成なんですか?」
「あーうん。まあ、そんなとこ。完成すれば反動で人が吹き飛ぶほどの威力持ってるって」
「すげー!」
「でもさ、その”そよかぜステップ”って、あの雷門中で幻の選手って言われてる【松風天馬】って人の技だろ?」
「ああ。それも中学の3年間だけ在籍してた少年とかで、高校以降のサッカー大会には名前すら見かけなかったっていう…」
「たしか霧野監督ってその人の1つ上の先輩で、一緒のフィールドでプレー経験あるんだよな」
「けど俺、雷門中出身なんだけどさ、その頃のサッカー部3年間の記録に1つもなかったんだよ。その【松風】って人の写真とか試合を撮ったヤツとかなぁーんも」
「だから、幻扱いなんだろ?でも、先輩が実際に”そよかぜステップ”を使ったことで、その技が実際にあるってことは分かったよな!」
「…となると、先輩!」
1年たちが天馬さんのことを【幻の少年】と言っているのを聞いて、おもわず首を傾げていると、不意に話題を振られ、俺は慌てて反応する。
「あっおうっ!なんだ?」
「先輩は、その幻の選手。【松風天馬】に会ったことあるんですか?」
「えっ?ああ、まあ。俺がまだ7歳の頃だったかな。ここにいた時、1週間ほどだったけど技、教えてくれたんだ。それとさ、おまえら1つ間違ってるぞ!おまえらさ--」
--松風天馬は男じゃなくて女だぞ。
そう俺が間違って伝わっている情報を正そうと口を開いたときだった。
「おーい!おまえら!!何さぼってんだぁ!!早く片付けないと帰り遅くなるだけだぞ〜!」
「うっわ!監督に見つかった〜!」
「あっはい!すぐに終わらせまーす!」
「それとっ先輩は上級生なんですから、後は俺らに任せて先に帰ってください。1年だけでも充分片づけできる数いますんで」
「あーでも」
俺が散り散りになっていく1年の1人に声を掛けようとしたときだった。
「!ちょっといいか?」
霧野監督が俺の元へと歩み寄ってくるのが見え、俺はそのまま彼らの言うとおりに残りの仕事を任せて、グラウンドを離れた。
※ ※ ※
「あの技を…ですか?」
「ああ。コイツにも見せてやってほしいんだ。ただし」
「ただし…なんですか?」
「今回は俺と神童が相手な」
「ええっ?!」
「大丈夫だって!手加減はするから!なっ?」
「う…はあ。技見せるだけですしね」
「よし!話がまとまったところで、行くぞ!神童。例の場所へ」
「ああ」
霧野は弟が腹空かせて待ってるからと先に帰宅し、俺は寮へ帰る前に監督と神童親子と一緒に、河川敷へと行くこととなってしまった。
「しかし、意外な出会いというのもあるものなんだな。君が彼女の技を引き継いでいたとは」
「あの…神童さんも、もしかして天馬さんを知ってる?」
「ああ。俺もアイツとは一緒にサッカーしてたことあったからな。同じ選手として」
「選手…。それじゃあ拓葉先輩が見た目によらずサッカー熟練者なのも」
「拓葉?ほお…おまえ、ウチの娘とはずいぶんと親しい間柄のようだな?会って2日もしないうちに名前で呼ぶだなんて」
俺がさりげなく、横目で拓葉先輩を見ながらぼそりと呟いた一言に、ぴくりと反応する神童さん。
なんか彼の背中から黒い何かが上がってきてるのが見えるんですけど---。
「あー神童?化身でそうになってるぞぉ。落ち着け〜」
「お父様っ!くんはすっごくいい人なんだよ!ほらっ昨日話したじゃない。私と蘭花を助けてくれた男の子のこと。彼がそうなんだよ」
霧野監督が化身とか何とかいいながら、珍しく慌てて神童さんを落ち着かせている。
うーん。なんかこの人、見た目以上に怖い人なのかもしれない。
俺がそう神童さんを宥める2人を遠巻きに見つめていると、拓葉先輩の言葉にパアッと表情を明るくして「そうか。そうだったのか」と急に俺を見る目が優しくなる神童さん。
「なんだ。キミが拓葉が言ってたか。拓葉が危ないところを助けてくれたんだってな。ありがとう。それじゃあ、霧野!はじめようか!」
「あっああ…おまえがそれでいいんなら、俺は構わないが」
なんか霧野監督が完全に神童さんに流されてる。
神童さんって一体何者なんだろう?
それに化身って…。
京馬もなんか昔、そんなこと話してたような気がするなあ。
2人が何か打ち合わせをしているのを遠目に見つめながら、俺は足元に転がしたままのボールをそっと蹴って宙へと舞い上がらせた。
(まあ、いいや。後で聞いてみよう)
--天馬さんのこと、もっと知りたいしな。
眼前に下りてきたボールをしっかりと捉え、俺は前方に見えるゴールポストへと向かって、それを叩き込みながら思うのであった。
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