僕のカノジョにはヒミツがある

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  6.守られなかった約束  

「うわっと!」
「あっごめんなさい!大丈夫ですか?」
「あっうん。平気だよ。それより、これキミの?」
「はい」
両手に買い物袋を提げたその女性は、足元に転がってたボールを器用に掬い上げると、数回リフティングをして見せた後、そのまま俺へと蹴り返してきた。
「よっと!」
「うわぁ〜!お姉ちゃん、凄い!」
「え〜?そうかなあ」
「ねえ、お姉ちゃんもサッカーするの?」
「ん?まあ、今は時々かな?家のことしなくちゃいけないし…でも、休日は子供たちと旦那と一緒にサッカーしてること多いかな?」
--ウチの家族みんなサッカー大好きだから。
そういって、その人は笑顔を見せた。
「子供?旦那?あれぇ?お姉ちゃん、もしかしておばさんなの?」
「おば…んー、たしかに私は子持ちですよ。でもね、まだ20代だから、おばさんは悲しいなあ。だから、こうしよう。私のことは”天馬”って呼ぼうよ。それでキミは」
「俺はだよ!天馬さん!」
「分かった。くんだね。よおし!今日から2人はサッカー友達だ!仲良くしようね」
「うん!」
それからというもの、天馬さんは頻繁に俺の様子を見に、公園へと顔を出してくれるようになった。
いつも同じ時間、買い物の帰りの1時間ほどだけだけど、俺の練習相手になってくれて、サッカーの楽しさを思い出させてくれた。
天馬さんは本当にサッカーが好きで、自分から言った約束の1時間をよく忘れて日が暮れてから慌てて帰るなんてことしょっちゅうだった。
「私もさ、小さいときは愛犬とサッカーしてること多かったんだぁ。だからね、雷門中のサッカー部に入ったときの唯一得意とすることがドリブルだけだったの」
「俺もです。俺も練習相手いなくて、出来ることといったらドリブル練習くらいで…それ以外はてんでダメで、次第にみんなから邪魔者扱いされちゃって」
「それで、いつも1人なんだ。ねえ?なんで飛び込んでいかないの?下手だからって気にしちゃダメだよ!みんなに何言われようとサッカー好きなら、ちゃんとサッカーと向き合おうよ!そうすれば、絶対ボールは答えてくれるよ」
「でもっ…俺のせいでチームのみんなに迷惑かけたくないし」
「大丈夫!なんとなるって!キミのここ」
スッと天馬さんの手が俺の胸に触れてきて、優しく包み込む。
「聞いてごらん。サッカーが好き!みんなと一緒に強くなりたいって言ってるよ」
「俺の…気持ち?」
「そうだよ。サッカーを好きな気持ちがあり続ける以上、キミはもっと努力できる!もっとみんなと一緒に強くなっていける!私もね、そうだったから」
--だから、諦めないで。逃げないで。今は下手でもそのうちサッカーはキミの気持ちに応えてくれるから。だから、本気のサッカー続けよう。
それは俺がサッカーの試合を明日に控えてること、そして試合に出るのをやめようかと考えていることを話したときに、天馬さんと交わした約束。
「だから、必ず試合でなよ!スタメンに選ばれたんだったら尚更だよ!」
「…はい!俺、やってみます!だから、天馬さん!良かったら明日、試合見に来てくれますか?」
「うん。もちろん!それに、私直伝のドリブル技が本番で通用するか見たいしね」
「今のところ、もう少しのところで不発なんですよね…俺、本番でできるかなあ?」
「できるかなあ?じゃないだろ!」
「はい。そうでしたね。なんとかなるさ!ですよね」
※ ※ ※
--それが結局、天馬さんと交わした最後の会話となってしまった。
「結局、天馬さんは試合会場には顔を見せることはなくて、俺の”そよかぜステップ”の完成も見てもらえないまま、俺はまもなくしてここを離れてしまった。だから、また戻ってきたら今度こそ天馬さんに見てもらおうって思って、ここ雷門を選んだんです。あの人もここの卒業生だって聞いてたので、何か分かるかな?って思って」
「そうか…おまえがアイツの言ってた”先が楽しみな男の子”だったのか」
「え?それ…どういう」
俺の話を聞き終え、霧野監督は気持ち沈んだ面持ちで額に組んだ両手を乗せながら、衝撃的な発言を俺にする。
「ああ。おまえが技教わったっていう奴な。俺の死んだ奥さんなんだ」
「え?死んだ…って。天馬さん、もういないんですか?」
「ああ。それも10年も前にな。忘れもしない…あれは、ちょうど今みたいな秋空が綺麗な日曜の朝だった。アイツは蘭花と琥太丸連れて、一緒におまえの試合を観にいくと行ってたっけ。俺はその日は午後に試合があったから一緒には行けなくてさ。まさか、朝交わした挨拶が最期になるなんて--」
「霧野…監督?」
「事故だった。天馬は居眠り運転のトラックが誤って歩道に突っ込んできた時に、蘭花を庇うように自らを盾にしてまともに当てられて…即死だったそうだ。呆気なかった。こんなにもあっさりと最愛の人が遠くに逝くなんて。それとさ、信じられなかったよ…まさかおまえがアイツの技を受け継いでた少年だったなんて。あの技ももう二度と見ることはないだろうなって思ってただけあって驚いた」
震える声で俺に、俺が会いたがっていた人がすでにこの世にはいないという真実を告げた後、霧野監督は最後に小さな声で「ありがとな」と呟いた。
「おまえがアイツの技受け継いでくれていて、正直嬉しかったよ。他には何か教えてもらってるのか?マッハウィンドとかのシュート技」
「あーいえ、俺が教えてもらったのはそよかぜステップだけです。後は知りません。その技も今はじめて聞きました」
「そうか。でも、いいか。天馬の技は娘の蘭花でさえ、マスターできなかった技でさ。おまえが例え1つでも覚えてたことは貴重だから」
--またアイツがサッカーしに戻ってきてくれたみたいでさ。
霧野監督はゆっくりと椅子から立ち上がると、ふと時計を見つめ「そろそろ終わりの時間だな」と独り言を言いながら、ふと思い出したように俺へと助言を残していく。
「あっそうそう。おまえのそよかぜステップな。あれ、まだ100%じゃないぜ。アイツのそよかぜステップは反動で相手選手が吹き飛ばされるほどの勢いがあったからな。おまえのはせいぜい相手がよろけてバランス崩す程度みたいだったし、まだ伸びるぞ。だから、明日からその辺の強化を考えてメニュー組むからがんばれよ!」
--俺の指導は鬼のように厳しいからな、覚悟しとけよ!
さっき一瞬だけど見せた悲しげな表情はどこへやら。
霧野監督はにやりと不敵な笑みを浮かべながら、俺を置いてミーティングルームを出て行くのであった。
(あれ、完成形じゃなかったんだ。でも、あれでほぼ8割は抜けてたからなぁ。完成したらひょっとして無敵のドリブル技になるんじゃ?)
そう思えば思うほど、あの人って一体何者?とさえ思えてしまうのであった。
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