僕の彼女にはヒミツがある

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  2.素直じゃない同級生と人懐こい先輩  


「へえ。そりゃあ、大変だったな」
夕刻近く、俺は雷門高寮へと到着。
少し遅れたことを寮母さんに謝ってから、俺は男子寮の玄関前で待ち構えていた幼なじみの剣城京馬と一緒に、部屋へと向かう。
「その女がすっげえ強いんだよ!なんかやってんのかなあ?」
「だろうな。俺のクラスメイトにも1人いるぜ。めちゃくちゃこえー女」
「うっわ。それは遠慮したいなあ。でも、俺おまえと同じクラスだって話だからなあ。ってことはその女とも同じってことかよ」
「まあ、関わんなきゃいいってことだろ?関わらずに済むんならさ。んで、もう1人のは?」
「んー。ふわっとした感じで可愛い子だった。年下かな?」
「なんで声かけなかったんだよ!バカだなあ。危ないとこ助けたってだけでも、かなり好感度高かっただろうにさ」
「そりゃ分かるけど、一緒にいた女がどうもその子のボディガードっぽくて、下手に声かけらんなかったんだよなあ」
「そうか。もったいなかったな」
「んーまあ、あんなとこで会ったくらいだし、この近辺の女子だろうから、案外ウチの学校の子かもよ。年も近っぽそうだったし」
「だったら、明日一緒に探そうぜ」
「おうっ!それいいかも!とりあえず、凶暴女がいないとこ狙ってな」
京馬が部屋の前まで来ると、足を止め、ポケットから鍵を取り出し戸を開ける。
「ほらっ!前もって寮長に話しといたから。俺とおまえ相部屋な。普通は途中から入る奴の相部屋なんてないんだけどさ。俺、元々1人だったしちょうどいいからって」
「おうっ!サンキュな。俺も1人でいるよか、おまえと一緒の方が退屈しないしな。それに、昔思い出すしさ」
「俺も。とは小1までの付き合いだったけど、楽しかったよな!当然、おまえもサッカー部入るんだろ?」
「ああ。そのつもりだけど…でも、俺入れっかなあ。ここレベル高いんだろ?」
「まあな。監督もさ、今年から霧野さんになったし、ますます厳しくなってるぜー」
「え?霧野って…あの元プロサッカー選手の霧野蘭丸かよ」
「ああ。現役引退してから、こっちの監督になった。まあ、あの人の娘がウチいるから、理事長が娘通して話つけたっぽいんだけどさ」
「へえ。あの人、結婚して子供までいたんだ。そんな話、一度も聞いたことなかったのに」
「ある意味、すげえよなあ。一度もそっち方面の噂上がったことねえんだもん」
「ちなみにその娘が今年からマネージャーに転向。別に来なくたっていいのにさあ。おとなしく女子サッカー部で選手としてフィールドに立ってろっての」
「何?その霧野さんの娘ってマネージャーなの?おおっ!なんかサッカー部入るの楽しみになってきたぜ!」
「いや、あまり期待しないほうがいいぜ。たしかに容姿はいいけど、性格に欠陥ありだからアイツ」
サッと京馬が窓際のカーテンへと手をかけ、閉めようとしたときだった。
外側から誰かがガラリと窓を開ける気配と同時に、京馬が「ゲッ」という声。
俺が荷物を片付ける手を止め、窓の方へと視線を向ければ、見覚えのあるピンクのポニーテールがちらりと揺れ、京馬を押しのけ窓際から部屋の中へ飛び込んでくるのが見えた。
「だ〜れがっ欠陥あるってぇ?」
「だから、てめえだよ!霧野!」
「あー?もっぺん言ってみろ!剣城ーっ!」
部屋に入るなり、京馬の胸倉に掴みかかり、牙を剥きだし今にも襲い掛からんばかりの狼のごとく噛みつく女を前に、俺は「あっ」とおもわず声をあげていた。
「ん?あれ?アンタ」
相手もやはり俺を覚えていたらしく、俺の声に反応するなり、京馬を掴む手を離し、俺をジッと見据えている。
と、そこへさらに別の声が窓の外から遠慮がちに聞こえてきた。
「ねえ、蘭花〜。私も転入生みたいよぉ。上に上げて〜」
窓の桟に手をかけ、ぴょこぴょこと茶色がかった灰色の髪が、上下運動を繰り返しているのが俺らの視界に入る。
「なんだ。神童も連れてきてたのか」
「あー京馬くん。お願い、手伝って〜。登れないよぉ」
「ったく!仕方ねえな。ほらよっ!」
京馬が両手を差し出せば、小さな手がその腕をしっかりと掴み、ふわっとしたロングスカートを靡かせて、さりげに土足で部屋へと舞い降りた。
「おい!神童!ここはおまえんちと違うんだから、靴脱げ!靴!」
「ふええ〜!ごめんなさい〜」
京馬に言われ、慌てて靴を脱ぐ。
(やっぱり、この子。可愛い)
おもわずポーッとした目で見つめていると、霧野の怒声がいきなり京馬へと叫ばれ、俺はびくりと肩を震わせた。
「こらっ!剣城!おまえ、何度言ったら分かるんだよ!拓葉のことは”神童”じゃなくて”神童先輩”だろうが!おまえがそんなんだから、他の男子にまで拓葉が舐められてるんだからな!」
「え?…先輩?」
「ん?ああ。そういえば自己紹介がまだだったな。あたしは、霧野蘭花。アンタと同じ2年。剣城と同じクラスになるんだってな。だったら、あたしも一緒だからさ。よろしく〜」
「あのっ私は、しっ神童拓葉です!えと蘭花と京馬くんより1つ上の3年です。でもっ気にしなくていいよ!私、童顔だから一度も高3に見られないから//」
「だ〜か〜ら〜!そこ肯定するなって昔から言ってるでしょおが!胸ばっかりでっかくなって、頭は全く成長してないんだから!」
「ふえ〜っ蘭花のバカァッ!胸のことは言わないでって昨日も言ったばかりじゃない〜!ひどいよぉ!」
「あーっ!てめえら、ギャンギャンうっせえんだよ!ケンカすんなら、さっさと家帰れよ!とくに神童は門限あるんだろおが!いい加減、帰らないと親父が気狂うぞ」
「あーその辺は大丈夫だって。あたしが一緒だって分かってるから。それに」
霧野は俺へと視線を向けると、ちょっぴり頬を染め口ごもる。
それを横目で見つめながら、神童先輩がにっこりと微笑むと彼女の言えずにいる言葉をさらりと引き継いだ。
「まさか、京馬くんのお友達が私たちを昼間助けてくれた男の子だとは思いもしなかったしね。蘭花〜」
「え?じゃあ、おまえがさっき話してた男3人を蹴り倒したつえー女って」
「ああ、彼女。霧野さん」
俺がそう改めて京馬に話せば、みるみるうちに霧野の顔が真っ赤になっていく。
「蘭花ね。ものすっごくあなたにお礼言いたがってたんだよ。なのに、あなたってば知らない間にいなくなっちゃってて。でも、良かったね〜蘭花。こうやって偶然にも、恩人に会えて」
「なっ//あっあたしは拓葉ほど気にしてないわよ!ただ、いちお礼はいっとこうかな?程度で…別に、どうしてもってわけじゃ」
「そ〜お?でも、私は会えて嬉しいよ〜!えと、あなたお名前は?」
「あっ俺は。明日から、雷門に転入するんでよろしく。それと、サッカー部に入るつもりだから」
「そうなんだ!くんがサッカー部かあ…私も蘭花みたいにマネージャーになろうかなあ?そうしたらくんに毎日会えるもんね」
「え?//」
神童先輩の言葉に、おもわず俺の頬が真っ赤に染まる。
(やっぱり、この人可愛い。先輩とはいえ、1つ上なだけだし全然有効範囲だよな?)
にっこりと微笑み、人懐こい笑みさえ浮かべる神童先輩に俺は完全に一目ぼれしてしまったようだ。
向こうも俺に対して好意的みたいだし、なんかいいかも。
なんて、思っていたら俺の隣で黙りこくっていた霧野が、つかつかと神童先輩のとこまで歩み寄り、彼女の腕を乱暴に掴んだ。
「何言ってんのよ!アンタは合唱部があるでしょおが!」
「んーじゃあ、私退部届けだすよ。それから、サッカー部の」
「とっとにかく!もう時間も遅いし、帰るわよ!」
「ええーっ?!もう?今、来たばっかりだよ〜」
「仕方ないでしょ!元々、あたしら剣城の幼なじみの顔見に来ただけなんだからさ!あんまり、遅くなるといくらあたしがついてるとはいえ、マジで拓人さん心配するから!ね?拓葉帰るよ」
「はあい。それじゃあ、くん。京馬くん。また明日ね」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「じゃあ、明日」
「ああ。明日」
神童先輩を先に下ろし、続いて自分も靴を履いてから、窓の桟に足をかけ降りる霧野。
ストンッと植え込みの影に隠れるように身を落とすと、霧野は窓から顔を覗かせた俺と京馬へと振り返り、神童先輩の手をしっかりと握りながら、小さな声で一言。
「それと…ありがとね」
「え?」
「いやっ//そのっアンタの入部の件はあたしからパパに話しといてあげるから!そしたら、すぐ入部テストしてもらえるでしょ?そんだけ!じゃあ」
「あっああ」
顔を真っ赤にして、最初に言った言葉を聞き返した俺に、明らかに全く違う言葉を吐き捨て、霧野は神童先輩を引っ張って、校舎の方へと駆けて行ってしまった。
「変な奴」
ぼそりと京馬が霧野を見送りながら呟いた。
「そうかな?俺はそうは思わなかったけど」
夕飯の時間も近かったため、食堂へ行こうと声を掛けてきた京馬に小さく頷き返し、俺は開け放されたままだった窓を閉めながら、2人の少女のことを思っていた。
(なんか楽しい学校生活になりそうだな)
「ほら、行くぞ」
「ああ」
そして、俺は京馬を追って部屋を出るのであった。
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