僕の彼女にはヒミツがある
11.理由は…
「あれ?なんだ。霧野は来てないのか?」
「うん。蘭花は朝はいつも少し遅れてくるから」
「え?そうなんですか?」
今朝の琥太丸との一件のことで、姉であるアイツにちょっと聞いておきたいことがあった。
しかし、朝練へ出てみれば、父親の霧野監督はいたが、アイツがいない。
俺が京馬にそのことを問いただしていたら、拓葉先輩が代わりに事情を説明してくれた。
「うん。ほら、蘭花。天馬さんいなくなってからずっと家の事代わりにしてるから」
「あーそうか。その上、マネージャー業までして。アイツ、相当の世話好きだよな」
「蘭花は天馬さんに似て家族思いの子だから」
俺が拓葉先輩の言葉に、おもわずといった感じで京馬にそう苦笑しながら、話していると拓葉先輩がニコニコと笑いながらも視線は霧野監督へと向けて、急に神妙な面持ちになって小声で呟いた言葉。
「たぶん、あの子がマネージャーはじめたのもきっと、蘭丸さんのこと心配してのことなんじゃないかなぁ?もう10年も経つんだから蘭丸さんだってもう大丈夫だと思うんだけど」
「霧野監督、なにかあるんですか?」
「え?あっううん!今は大丈夫よ!今は至って健康そのものらしいから…だけど」
これ以上は彼らのプライバシーに関わる問題だからと拓葉先輩は自ら口を噤み、「ドリンクの準備してくるね」と言って俺たちから離れていくのだった。
「…やっぱ、霧野監督の早々のプロ引退って今の神童の話と関係あんのかな?」
拓葉先輩がいなくなってすぐに、ぼそりと京馬が俺に耳打ちしてきた。
「え?おまえなんか知ってんの?」
「いや。俺もよくは知らねえけどさ、ただ父ちゃんが霧野監督が最後にいたチームのメンバーだったからさ。それに元々、同じ雷門OBだし、それなりに話せる仲だったから…。松風天馬とも交流あったし。とはいっても、あの人が結婚する前までだけらしいけどな」
--そんな間柄で少しだけ監督が精神的な病気にかかっていたらしいことを聞いたことがある。
京馬はそう囁くと「でも、それを父ちゃんが知ったのは、あの人が奥さん亡くしてから5年くらい経ってからのことだからな」と、今はもう医者にかかってないらしいことを打ち明けてくれた。
「ほら、あの人。一時期「もう引退か?」ってスポーツ紙で騒がれてた時期あったじゃん?今、思えばちょうどあの頃だよな。霧野の母ちゃんが事故で死んじゃったのって…。あの人がJ2に降格したのもそれからまもなくだったし。でもさ、それから1年後には嘘みたいな復活遂げてさ!父ちゃんのチームへ移籍してきたんだよな」
その後は京馬の霧野監督の完全復活後から引退に至るまでの活躍話で、俺たちのウォーミングアップは終了した。
そして霧野監督の指示の下、チームメンバーがそれぞれのカリキュラムに沿って練習を始めた頃になって、霧野が「遅くなりました!」と言って、ベンチに駆け込む姿が、視界の端に捉えられたのだった。
※ ※ ※
「…そっか。琥太丸がそんなことを」
「ああ。それとさ…」
朝練を終え、俺は教室へ霧野、京馬と戻りながら霧野に今朝のことを早速話した。
「昨日は言いづらかったんだけど、その時円堂が俺に教えてくれた言葉もあって、やっぱ知っておきたくて。あのさ、アイツ…なんか俺と目が合ったとき、物凄く怖い顔で俺のこと睨んでったんだ。なあ俺、昨日アイツに睨まれるような会話してたか?」
「それは…」
「心配すんなよ。アイツはサッカーやってる奴、みーんな嫌いなんだからよ」
「え?」
霧野が言いづらそうに俺から視線を外すと同時に、今度は京馬が俺たちの会話に口を挟む。
京馬は俯き黙り込む霧野を後目に、「そんなに思い悩むような理由じゃない」とハッキリと俺に公言した後、「俺も同じようなこと昔されてっから」とだけ答えると、俺の肩をポンっと叩き、気に病むなって感じで俺の腕を引いて再び歩き出した。
霧野はそんな俺と京馬をなんともいえない顔で見送りながら、それからチャイムが鳴るギリギリまで教室へ入ってくることはなかったのだった。
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