僕のカノジョにはヒミツがある
10.熱血少女と冷めた少年
--ピピピッピピピッ…
携帯のアラームが早朝の静まり返った寮の一室に鳴り響く。
「んっ?…ふぁーあ。もうこんな時間かぁ」
もぞもぞとベッドから這い出し、俺は携帯のアラームを止めながら、2段ベッドの上で寝ている京馬を起こさないようにとそっとジャージに着替えて、サッカーボールを片手に外へと飛び出した。
「よしっ!今日も1日がんばるぞ!!」
昨日の疲れはまだとれないが、それでもあの日から10年。
天馬さんと約束したとおりに、俺はこの朝の日課を欠かさず続けているんだ。
病気で動けない限りはこのロードワークをやらない日はない。
「日々の基礎の積み重ねが自身をさらに高めるんだもんな」
俺は大きく深呼吸を1つすると、まだ太陽が顔を覗かせていない朝靄の中を飛び出していくのであった。
※ ※ ※
「…99…100っと!」
雷門高を出て、昔天馬さんや京馬とサッカーの練習をしていた公園跡を回って、河川敷へと戻っていく。
ボールをベンチに置いて、腕立て、腹筋、スクワットをそれぞれ100回ずつこなしていく。
昔は100回もできないくらいスタミナなかったんだけどな…
今日はさすがに昨日の疲れもあってか、久々に苦戦したけど何とか目標を達成できた。
「さてと、それじゃあドリブルの練習でもすっか」
携帯の時計を確認してから、ボールを取りにいこうとベンチへと目を向けたときだった。
「あっ。おまえ」
「あっ!おはようございます!えと…そうだ!先輩でしたよね?」
「あっああ。おまえはたしか円堂…だっけ?」
「はい!円堂椛です!もしかして先輩も自主トレですか?」
「え?ああ、そうだけど」
「わあ〜!実はボクもなんですよぉ!!普段は父ちゃと一緒なんですけどね。父ちゃ、昨日から兄ぃと一緒に遠征試合でいないから」
--うっかりしてたら寝坊しちゃって。
俺が一言喋れば十倍にして返す。
円堂はまさにそんな口の減らない女の子のようだ。
円堂は俺が自主トレで河川敷でサッカーの練習をしていることを知るとすぐに「自分も!」と俺のボールを元気よく蹴り上げて、俺へとパスを通してくる。
(本当はドリブル練習するつもりでいたんだけどな)
ボールを受け取りながら、やる気満々の円堂をほったらかすのもかわいそうだと思い、俺は仕方なしにと彼女の練習に付き合ってやることにする。
「へえっおまえ、けっこうやるじゃん!さすが円堂秋夜(ときや)の妹ってことはあるな」
「え?先輩、兄ぃのこと知ってるんですか?」
「何言ってんだよ!円堂秋夜っていったら、雷門高OBのリベロとして有名だぞ!途中でGKに転向したけど、それでもこうしてプロとして活躍してさ!すげぇ」
円堂がおもいっきり蹴り上げたボールがコントロールを見失って、河川敷を超えマンションの方へと飛んでいってしまった時だった。
「…うおっ?!」
--びゅんっ!
俺の言葉を遮るようにして、風を切り、サッと頬を掠めたのは、今さっきマンション側へと転がってったはずのサッカーボール。
「…そう言ってさ、椛を知らず知らずに傷つけてること…いい加減気づけよな」
「…え?」
「あっ!琥太丸!!オッス!おまえもロードワーク??」
「ちげーよ。来週、バスケ部の試合に助っ人で出なきゃなんなくなっちまったから、これから朝練行くんだよ」
河川敷の上の方からこちらを見下ろす形で立っていたのは霧野の弟の琥太丸だった。
「なっなあ!もしかして、今これ蹴ったのおまえか?」
「ああ。ちょうど俺の目の前に飛んできてさ。あぶねーだろが…気をつけろよな」
「あっ悪い。じゃなくて!おまえっそんなすっげえキック力持ってなんでサッカー」
「ああっ!うっせぇな!俺はサッカーが大っ嫌いなんだよ!ボールを見るのもムカつくんだ!…なのに、ここはどいつもこいつもサッカーサッカー…父ちゃんがプロだからどうとか…何が幻の選手・天馬だよ。ふざけんなっての」
「おいっ」
スッと俺たちに背を向け、歩き出した琥太丸を呼び止めようとすれば、とっさに円堂が俺の肩を掴み黙って制止する。
「円堂?」
「琥太丸はサッカーが原因で天叔母さん亡くしたって思ってるから…。サッカーのこと恨んでるんだ」
--だから、許してあげて。彼の言動。
そっと力なく、外された円堂の手に俺は敢えて、彼を追いかけ「サッカーやらないなんてもったいない」とか「やろうぜ!サッカー」と勧める意思さえなくしたかのように、その場に立ち尽くす。
「なんで…あんなにサッカー大好きだった人の息子なのに…。なんで、彼女の死が原因でサッカーを恨まなくちゃいけなくなっちゃったんだよ」
「先輩…」
グッと手にしていたサッカーボールを握り締める手に力がこもる。
--今、あの人がここにいたら、自分の息子がサッカーを恨んでると知ったとき、一体どんな顔をするのだろうか?
ふとそんな思いが心の片隅を過ぎるのであった。
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