誰かがこんなこと言ってた

『短冊に好きな人との恋の成就の願いを書いたらね、それを誰にもそれをつけてるところを見られないように、笹の葉の一番高いところにつけるんだって。そうするとね。その願い事が本当に叶うんだって』

どうせくだらないまじないごとだ。

そう思いながら、聞き流していた。

でも---。

 

最初で最後のおまじない

 

「え?おまえ、引っ越しちゃうの?」

それは7月に入ってすぐに聞かされた話だった。

俺が母さんに頼まれた用事でちょうど輝二の家の近辺まで買い物に出た帰り道。

偶然、駅の前で輝二と会って、それで帰る前にと久々だったし話して---。

普段ならそれで終わるとこだったんだけど、今日はそうもいかなくて。

俺は輝二から突如告げられた言葉に、なんと返していいか分からなかった。

「ああ。夏休みに入ったら、すぐに引越しの準備して…」

「じゃっじゃあ、俺の誕生日にはもう」

「そうだな。たぶん、もうここにはいないだろうな」

「そっか。まあ、仕方ないよな。でもさ、全然会えないわけじゃないよな?」

一度は本気でしょげそうだったけど、そこを何とかこらえて、笑顔を向けて希望にも似た願いを口にする。

それに対して、輝二も笑顔で俺の思いに答えてくれて、少しだけ元気戻った。

「そうだな。今まではそれっきりと思っていたが、おまえたちとはそれで終わりにしたくないからな。年に1回でも会えたらいいよな」

「じゃあさ!約束しようぜ!みんなで!おまえが引っ越しちまう前にな」

「おいおい。そんなに急がなくても、まだ1ヶ月はあるんだからさ」

「とかいいながら、あっという間だぜ。んなもん!でも、残念だなあ。おまえと同じ高校行きたかったのに」

「俺と同じ高校っておまえの頭で受けられるのか?」

「やってみなきゃわかんねえっての!とはいえ、約束する前に消えちまったけどな」

その後は、いつものようにくだらない話をしながら、意見のぶつかり合いでケンカしたりで、気がついたら1時間近く店で潰していた。

俺は慌てて、立ち上がると輝二と一緒に店を出る。

「まっずい!俺、母さんに頼まれて出てきてたんだよ!いつまでも帰ってこないからって今頃怒ってっかも」

「そりゃ、大変だな。悪かったな。引き止めたりして」

「いや、いいんだ。だって、そもそも誘ったの俺だし」

--じゃあ、また今度。

そう互いに手をあげて、別れを告げる。

後何回、このやりとりができるのだろうか?

ただでさえ、会うことが少ない間柄なのに---。

それに---

俺、まだアイツに大事なこと言ってないってのにさ。

帰りの電車で俺は、窓越しに映る自分の姿を見ておもわずため息をついてしまう。

周りをちらと見渡せば、俺と同じくらいの年代の女の子たちが今流行の可愛い服を着て、女友達やカレシとはしゃいでいる姿がちらほらと目に映る。

俺はといえば、女である事実をずっとアイツに隠したまま、あの小5の夏以来、男友達として隣に立つことしかできなくて---。

(あれからもう4年経ったんだよな…)

アイツに嘘をつきはじめてから4年か。

思春期の女の子らしさとはかけ離れた、さばさばしたボーイッシュな格好をした俺が、窓ガラスにちらちらと映っては情けない顔で沈んでた。

(俺、アイツに告白できないまま別れるしかねえのかなあ)

こんな男女なままじゃ、とてもじゃないけどアイツに女としての俺の気持ち伝えられない。

呆れられるか、笑われるか…最悪、逃げられるか。

そんなの耐えられないと思った。

--俺は自分が思っていたよりも、ずっと弱い人間なのかもしれない。

おもわず、Tシャツの下に隠された小さな胸を抑えていた。

--好き。

あの日から、4年経つけど、変わってない。

むしろ、あの日からより強くなってる。

アイツはもう忘れただろうけど、俺は覚えているから。

忘れられなかったから…

電車が乗り換え駅へと近づいたときだった。

ちらりと映った大きな笹の葉と色とりどりの短冊。

ふと、同級の女の子たちが囁きあっていた話を思い出す。

(そういえば、短冊への願い事下げるの明日までだったっけ)

面倒だからと、書かずに終わらせてしまおうかなどと考えていた。

けど、一生に一度くらい、神頼みとかしてもいいかな?って思った。

だって、これが最後になるかもしれないんだからさ。

 

夜の学校、誰もいない校庭に明日飾る予定の笹の葉がビニールシートを被って横たわっている。

その一番上に、ひっそりと自分の願い事を秘めた短冊をしっかりと括りつける。

「この想い…届くのなら、お願いだから…アイツに伝えて」

静かに祈りをこめて、俺は夜空に瞬く星たちを見上げ呟いた。

--大好きな人にいつかこの想いをもう一度伝えられますように--

小さな願いは流れ星となって、消えていった。

 

-end-


あとがき--

本当はその後もあったんですが、夏祭りデートでも使えるネタだったので、敢えて切り捨てここまでで。

myFLの友達エンド後の中2夏のお話となっています。

黒くない内容で締めてみました。

もう黒いのはいい…やっぱり好きキャラ同士はなんやかんやいいながらも、ラブラブってないと悲しい。

(ちょっと守秋ショックひきずってる…秋ちゃんに円堂の嫁であってほしかったなあと。あー太空ショック以来だわ)

2011.7.3