| Doki Doki 恋のお勉強会
日曜の昼下がりの午後。 俺は拓也に頼まれて彼女の勉強を見てやっているところだ。 難しい顔をして目の前の問題集に必死になって取り組む拓也も可愛いものだ。 そう思いながら、ぼんやりと彼女に見惚れてしまう。 『なあ、ここの公式なんだけど』 『どれ?…ああ、ここはだな』 不意に声をかけられ、俺は慌てて本来の目的へと戻る。 拓也が示した問題へと目を通し、分かりやすく解き方のコツを教えてやる。 『あっそっか。ありがとな!輝二。やっぱ、おまえの教え方うまいわ』 可愛い笑顔で俺にお礼の言葉を囁く。 『それだけか?』 『それだけって何が?』 しかし、彼女の部屋まできて、感謝の言葉1つではやはり物足りない。 俺は軽い気持ちでキスを催促してみた。 『お礼にキスの1つでもくれてもいいだろうが』 『またかよ…』 『ダメか?』 『…いや、いいけど。その代わり目ぇ閉じとけよ。恥ずかしいから』 『分かった』 俺は言われるままに目を閉じる。 ペンをコトリと置く音、テーブルに両手でもついたのだろう。 軽く脚が軋む音がして、拓也の息が俺の頬を微かにくすぐる。 そして拓也の柔らかい唇が俺の頬へと---。 『どうした?』 寸でで拓也の動きが止まったのを気配で感じ取り、俺は拓也へと視線を向ける。 拓也は今度は耳まで真っ赤になりながら、いそいそと俺の隣へと回り込むと、俺の手をとり、大胆にも自分の平坦な胸へと持っていきグッと押し当てたまま、恥じらいに満ちた瞳を潤ませ、吐息交じりに甘い言葉を囁く。 『…どうせなら、その…俺ごとやろっか?』 『拓也…』 『輝二…』 それは日曜の昼下がりの午後のこと。彼女の部屋で俺たちはとうとう1つになっ---。 「誰が…ヤらせっか!」 --バキッ! 「ぐはっ!」 「あ…まだ続きあったんだけど」 おもわずこれ以上先にはいかせねえ!と輝二を殴っていたぜ。 「なっ何だ拓也?!いきなり殴りやがって!おもいっきり食らっちまっただろ!」 「うるせえ!どうせ、今輝一が語ったとおりの内容を妄想してたんだろうが!」 「だとしてもな!殴ることはないだろ!たしかに勉強を教えなきゃいけない立場でありながら、おまえが必死に勉強する姿が可愛いなあなんて思ったことは悪いと思ってるけどな」 輝二の弁解の言葉に、おもわず赤面してしまった俺。 それをごまかすように俺は反射的に輝二の胸倉を掴み、怒鳴り散らす。 「あー!やっぱり、くだらねえこと考えていやがったな!やっぱり輝一の想像どおりだったみたいだぜ。さすが、輝一!双子ってすげえなあ」 「いやあ、輝二の考えなんて大抵そんなもんかなあなんて思って、シナリオ作ったら思ったよりも凄いのできちゃってね」 「だからって、なんでそこから俺がいきなり殴られるんだ?」 「ん〜そうだな。それをせっかくだからと拓也に読み聞かせてたら、なんか拓也がブチ切れちゃったんだよね〜」 「なるほど輝一…おまえか。また勝手な妄想劇を拓也に吹き込んで怒らせたのは」 「え?なんだよ。輝一。もしかして、また嘘かよ?」 輝二の『妄想劇』という言葉に、俺はまたもや輝一に踊らされていたことに気づき、おもわず輝二から手を離し、輝一を凝視する。 しかし、輝一は全然悪びれる風もなく、しれっとした顔で言い返す。 「さあ、どうだろうね。とりあえず、輝二が拓也の部屋に酔ってぼんやりしてたのは事実だよね?拓也の顔ジーッと見つめて心はどこか遠くにいってたみたいだったし」 しかも、その言い分が、おもわず頷きたくなるような内容ときたもんだ。 俺は再び輝二へと怒りの炎の矛先を戻す。 「…よし!もういい。輝二は帰れ!」 「そうだそうだ〜帰れ輝二〜。後は俺がちゃんと手取り足取り教えておくから。輝二はもう帰っていいよ」 「あっいや…そこまでしなくてもさ」 「と、いうわけでおかえりはこち---、あ…叔母…さん?」 輝一が率先して、俺の部屋のドアノブに手をかけ、グッと押し開く。 と、同時に現れたのは如何にも聞き耳立ててましたっぽい体勢の母と信也。 信也は速やかに自室へ逃げ、母さんは気まずさ全開のまま、手にしていたお茶菓子とジュースの乗ったお盆を掲げて、引きつり笑顔を輝一へと向ける。 「あーえ〜と。お茶菓子持ってきたんだけど、食べる?」 「あ〜はい。いただき…ます」 ドアノブに手をかけたまま、母さんを見据えたまま、やはりこちらも密かに笑顔が引きつってる輝一。 俺はおもわず呆れて怒る気力さえ失くし、代わりにため息を1つ大きくついた。
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「あ〜あ。これじゃあ、また追試させられそうだぜ」 「ごめん!拓也。(今度は頭ん中、真っ白になるようなことしないから!)だから、ちゃんとやろう」 こそっと前回の勉強会であった過ちを俺に直接耳打ちして、悪気のない笑みを浮かべる輝一。 輝二はそんな輝一の俺とのやりとりに、ピクリと眉根を動かし、頬杖をついた姿勢はそのままに輝一を一睨みする。 俺は俺で不意打ちのキスのことを思い出さされ、反射的に顔を真っ赤にしてしまう始末だ。 ちなみに輝二は、俺が輝一と2度キスを交わしていることをたぶん知らない。と思いたい。 あの日--俺が双子に同日にキスをされ、輝一が輝二への宣戦布告をして以来、何かにつけて2人は俺に執拗にかまうようになってきた。 双子がよく同じ人を好きになるって話聞くけど、まさか俺がその当事者にあてがわれるとは思いもしなかった。 よりにも寄って校内で、一二を争うイケメンと女子共に騒がれている双子にだ。 (どうせなら、俺じゃなく泉に惚れりゃ良かったのにさ) 双子に好かれるのは嫌じゃない。 正直なとこ、俺は輝二のことも輝一のことも好きな方だと思う。 ただ、なんつーか双子は独占欲が揃って強いみたいで、あれ以来、俺は必ずどっちかに迫られ、かなり身の危険を感じることが多かったりするのだ。 だから、今日だって明日の数学の再試に向けての勉強は、本当は泉に教わるつもりだったんだ。 なのに、結局双子に押し切られ、2人に教わる羽目になっていたという。 なんか今のペースだと明日もマジやばいんじゃないかと思えてきた。 実際、勉強はじめてからの前半一時間。 さっきもそうだけど、全然勉強らしいことをしていない。 しかも俺が真面目に分からないと聞けば、2人がこぞって教えたがるんだから話にならない。 そんなことの繰り返しを十数回繰り返した頃。 俺は我慢の限界が来て、再びブチ切れた。 「あ〜!もお〜こんなことなら、俺1人で勉強した方がまだマシじゃねえかよ!おまえら、俺に教えてくれるっていいながら、結局邪魔してるだけじゃねえか!そんなんじゃ、教えてもらってる意味ねえよ!」 俺はもう、うんざりだとばかりに頭を抱えてテーブルの上に突っ伏す。 しばしの沈黙。 双子は俺が不貞腐れて両腕に顔をうずめたままでいると、何やらひそひそと小声で打ち合わせらしき相談事をはじめたようだ。 それから数分も経たないうちに、輝二が反省にも似た言葉をいきなり発したので、俺はびっくりしておもわず顔をあげた。 「そうだな。拓也の言うとおりみたいだ」 「ごめん。拓也。でも、俺も輝二も本気で、拓也には明日のテストはいい点とってもらいたいって思って、教えようとしてたんだよ。ただ…」 「拓也によく見てもらいたいあまりに、やり方間違ってたみたいだな」 「だね」 「輝二…輝一」 「まあ、そこで俺たち分担して拓也に教えようって、たった今話し合ったところなんだ。この方法なら拓也もちゃんと頭に入ると思うし、俺たちも教えあいとかで揉めないから、聞いてくれる?」 それから、輝一の提案に沿って俺と2人の勉強会が再開された。 今度は、さっきまでとは違って、ちゃんと互いに役割を決めて俺に教えてくれてるだけあって、すんなりと進んでいく。 俺は真面目に勉強を教え始めてくれた2人に、今日はじめての感謝の言葉を不意に口にしていた。 「ありがとな。2人とも…それと、怒鳴ってごめんな」 「その代わり、これでいい点とれたら1日デートな」 「…まっ変なことしないってんなら、いいぜ」 「じゃあ、俺もお願い」 「よし!じゃあ俺が奇跡の90点以上とれたら、おまえら2人とデートしてやる。ついでにほっぺにチュウくらいのおまけはつけてやってもいいぞ?」 せっかく2人が仲直りしたんだし。と、ちょっと俺もおもいきったこと言ってみる。 どっちにしても俺が数学で90点以上なんてまずとれるわけないんだし、口約束で終わるんだけどな。 「本当だろうな?」 「あっああ…でも、90点以上が条件だからな」 「大丈夫だよ。俺と輝二が本気を出せば拓也に90点なんてとらせるのなんて簡単だから。ね?輝二」 「そうだな。輝一と3人でってのが複雑なとこだが、拓也からの提案なんてまずないしな。今回だけは妥協するさ」 「あくまで俺が90点以上取れたらになるからな。ダメだったら潔く水に流せよ」 「「了解」」
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そして---。 「今回の再試の結果には先生も正直驚いたぞ。まさか、再試を受けた生徒の中で一番の高得点を神原女史が叩き出すとは予想もしてなかったからな」 「あ…はあ。俺も正直、驚いてます」 今日は再試者の答案返却日。 答案を返してもらい、次々と生徒たちが帰っていく中、偶然来ヶ谷先生に用事のあった棗先生が教室に入ってきて、聞かれたテストの出来映え。 「へえ、そんなにいい点だったのか?で、何点だったんだ?」 「えと…95点」 「まあ一度出した問題の再試だから、ちゃんと復習さえしていれば、できて当然なんだが、それにしてもよくがんばったではないか。偉いぞ」 「あっはあ。ありがとうございます」 滅多に褒めない来ヶ谷先生に褒められ、俺は嬉しさ半分、この先の危機感への恐怖半分で答案をしっかりと折りたたんでから教室を後にする。 「失礼しました」 一歩外へ出る。 と同時に結果報告を待ち構えてたかのように、双子が揃ってお出迎え。 おもわず「やっぱりいたか」と口走りそうになり、慌ててその言葉を呑みこみ、へつらい笑顔でごまかす。 「どうだった?テスト」 「あ〜まあまあかな?」 「それなりにいい点とれただろ?あれだけ、みっちりしごいてやったんだからな」 「うん…まあな」 (本当、おまえら急に鬼のように厳しくなりやがって…約束1つであんなに豹変するとは思いもしなかったけどな) 俺は双子の視線から目を逸らしながら、慌ててテストの答案を後ろ手で隠す。 「で?どうだった?当然90点はいったよね?」 (やっぱり聞きにきたか…参ったなあ) 90点以上とったらの約束の未来予想図が脳裏を過ぎり、おもわず背筋がゾクゾクッとした俺はとっさに嘘をつく。 「え?いやあ…惜しいところでとれなかったわ」 元々、通らない約束と決めつけて、おまけもつけて大きく出たことを今になって後悔する。 まさか本当にとれるとは思ってなかったんだから、慌てるだろ。普通。 「へえ?何点だったの?」 「えっと…89点?」 とりあえず、あまり悪い点数をあげると怪しまれるので微妙なとこをついてみた。 双子は俺の発した点数に、一瞬だけ全く同じ顔を見せた。 まさに「嘘だろ?ありえない」みたいな感じで。 まあ、嘘なんだけどさ…ホントは。 「たしかに90には届いてないな」 「だろ?まあ、条件は90点以上だったんだし、な?諦めろ。代わりに勉強教えてくれたお礼にジュース奢ってやるから、それで我慢しろ」 双子に後ろをとられないように気をつけながら、壁沿いを横這いに移動し、階段へと歩み寄っていく俺。 疑わしい目で俺を見つめる輝二と、何考えてるか分からない笑みを浮かべたままの輝一。 なんか嫌な予感がした。 案の定、輝一が動いた。 「あっそうだ。拓也の点数、来ヶ谷先生に聞いてみようかな?だってあんなに勉強して89点はおかしいもんね?」 「そうだな。軽く90点はとれてておかしくない出来だったしな。最後の練習問題では」 「せんせ〜い!拓也の数学の再試の点数なんですけど〜」 輝一がわざとらしく声をあげて、教室の戸を開けようとした所で、俺は観念して双子の前にテストの答案を差し出していた。 「…やっぱりな」 「とれてないわけないと思ったんだ」 俺の答案用紙を見て、勝ち誇った笑みを浮かべる輝二と輝一。 俺は下げた頭を上げられずに、こっそりと上目遣いにおずおずと例の約束の件を問いただしてみる。 「う〜…やっぱり公約は実行?デスカ」 「当然だろ」 さらりと肯定された。 「今度の日曜でいいかな?」 しかも早々に予定埋められた。 「ん…わかった」 それに対して、もはや拒否する権利もない俺は渋々頷く。 「ほっぺにチュウとかも言ってたよな?たしか」 「言ってたね〜。で、される方?する方?」 「それは…デートが終わってからな」 もう後には引けない。 俺はついうっかりしてしまった約束を後で激しく後悔することとなる。
-end- あとがき-- ちょっとぐだぐだになったけど、次回へ繋いだぞ!っていうか、シリーズじゃないのに… とりあえず双子とデートなんだよ! やっぱりチュウはされるのだろうか?それとも拓也さんからするのか? まだ何も考えてない… 2011.3.24 |